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2024年6月20日

業務上横領罪とは

 会社経営者としては、自社の役員・社員に会社財産を横領している疑いがあると分かった場合には、その真偽を確かめるとともに、法的に犯罪に当たるかなどの検討を要することとなります。

 業務上横領罪(刑法253条)とは、①業務上②自己の占有する他人の物を③横領した場合に成立する罪です。業務上の委託関係の存在によって、通常の横領罪(刑法252条1項)よりも重い刑罰が科されます。以下、①~③について簡単にご説明します。

① 「業務上」とは

 「業務」とは、社会生活上の地位に基づいて反復継続して行う事務を指しますが、業務上横領罪においては、特に、委託を受けて物を管理することを内容とする事務を指します。例えば、会社役員の業務や経理担当の職員の事務などが、ここでいう「業務」にあたります。

② 「自己の占有する他人の物」とは

 そもそも横領罪は、物の所有権及び委託関係を保護することを目的としているため、他人が所有する物を委託関係に基づいて保持していることが要件とされます。委託関係は雇用契約などによって生じますから、従業員が会社の財産を管理している場合には、この財産が「自己の占有する他人の物」に該当します。

 横領罪における占有には、現実に現金を保持する場合のみでなく、預金管理しているなど間接的に管理している場合も含まれますから、従業員が会社預金を引き出して自己利用する場合も、業務上横領罪の処罰対象となります。

③ 「横領」とは

 「横領」とは、他人の物の占有者が委託の任務に背いて、権限がないのに所有者でなければできないような処分をすることを意味します。これは、管理を任されている物を自己又は第三者のために勝手に使用したり売却したりする場合を指します。

 会社財産を自分以外の第三者(自分の家族や知人など、会社と無関係の者)に渡す行為や、自分以外の者に売却する行為も「横領」に当たることに注意が必要です。

業務上横領罪の量刑

 業務上横領罪の法定刑は、10年以下の懲役(令和7年4月1日以降は、10年以下の拘禁刑)となっています。このため、業務上横領罪を犯した場合、不起訴処分とならない限りは、罰金で済むことがなく、懲役刑が科されることとなります。

 業務上横領罪を犯した場合の刑罰の重さは、被害金額、常習性の有無・程度、同様の財産犯の前科の有無、犯人の社内での立場(どの程度地位を利用したか)などによって定められますが、最も重要なのは被害金額です。裁判例を見てみると、被害金額が500万円を超えたあたりから、初犯(前科なし)であっても実刑が科される事例が見受けられるようになります。

 但し、被害金額が高額であっても、犯人から会社に被害弁償がされたり、犯人と会社との間で示談(和解)がされていたりすると、執行猶予が付されていきなり刑務所に入らずに済んでいるケースも多いです。犯人からすれば、自分の刑罰を軽くするためにも被害弁償をするモチベーションが高くなることが一般的です。このため、会社として、犯人への厳重処罰よりも被害回復を優先するのであれば、積極的に弁償を求める働きかけも有用です。

 なお、業務上横領罪は、犯行後7年以内に起訴されなければ公訴時効によって処罰されませんので、注意が必要です。

役員・社員による横領が発覚した場合の対処法

 役員・社員による横領が発覚した場合には、会社への被害を最小限にするとともに、当該役員・社員への責任追及のための証拠収集を行う必要があります。

 まずは、当該役員・社員が更に横領を繰り返して会社財産が減少することを防ぐために、会社財産へのアクセスをできなくしたり、業務内容を変更したりする必要があります。特に、会社名義の預貯金の引出しが可能な場合には、早急にこれをできなくするように手続を取る必要があります。

 その後、当該役員・社員の周辺の人物から事情聴取をするとともに、客観的な証拠を収集する必要があります。勢い余って拙速に役員・社員本人を問い詰めても、証拠がなければ逃げ道を与えてしまい、適切な責任追及・懲戒処分ができなくなってしまう可能性があります。

 以上の初期対応を取った上で、役員・社員に損害賠償請求・不当利得返還請求をすることでその責任追及を行うとともに、懲戒解雇処分等の懲戒処分も検討する必要があります。このタイミングは、収集できた証拠の内容を踏まえながら慎重に決する必要があります。また、民事上の時効との関係で、不法行為や債務不履行に基づく損害賠償請求・不当利得返還請求は、横領行為及びその犯人を知った時から5年以内(但し、不法行為に基づく損害賠償請求の場合は3年以内)に行う必要があります。なお、交渉の進み方次第で、刑事告訴を行った方が良い場合もあります。

 以上の役員・社員による横領への対応には、時効のタイミングをにらみながら、犯人が上手く言い逃れをすることや証拠隠滅することができなくなるように適切な証拠を収集する必要があります。集まった証拠の内容が適切かどうかは専門家の判断を要する事項ですから、ぜひ、早期の弁護士へのご相談をお勧めいたします。

【著者情報】


2001年 京都大学法学部 卒業

2014年 ボストン大学ロースクール修了(LL.M. in Banking & Financial Law)

北陸電力株式会社、検察官を経て、2007年に弁護士となる

以後約16年間シティユーワ法律事務所に所属し、2023年より弁護士法人グレイスにて勤務

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