2024年6月20日
2025年3月14日
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業務上横領罪とは
会社経営者としては、自社の役員・社員に会社財産を横領している疑いがあると分かった場合には、その真偽を確かめるとともに、法的に犯罪に当たるかなどの検討を要することとなります。
業務上横領罪(刑法253条)とは、①業務上②自己の占有する他人の物を③横領した場合に成立する罪です。業務上の委託関係の存在によって、通常の横領罪(刑法252条1項)よりも重い刑罰が科されます。以下、①~③について簡単にご説明します。
「業務上」とは
「業務」とは、社会生活上の地位に基づいて反復継続して行う事務を指しますが、業務上横領罪においては、特に、委託を受けて物を管理することを内容とする事務を指します。例えば、会社役員の業務や経理担当の職員の事務などが、ここでいう「業務」にあたります。
「自己の占有する他人の物」とは
そもそも横領罪は、物の所有権及び委託関係を保護することを目的としているため、他人が所有する物を委託関係に基づいて保持していることが要件とされます。委託関係は雇用契約などによって生じますから、従業員が会社の財産を管理している場合には、この財産が「自己の占有する他人の物」に該当します。
横領罪における占有には、現実に現金を保持する場合のみでなく、預金管理しているなど間接的に管理している場合も含まれますから、従業員が会社預金を引き出して自己利用する場合も、業務上横領罪の処罰対象となります。
「横領」とは
「横領」とは、他人の物の占有者が委託の任務に背いて、権限がないのに所有者でなければできないような処分をすることを意味します。これは、管理を任されている物を自己又は第三者のために勝手に使用したり売却したりする場合を指します。
会社財産を自分以外の第三者(自分の家族や知人など、会社と無関係の者)に渡す行為や、自分以外の者に売却する行為も「横領」に当たることに注意が必要です。
業務上横領のよくある事例
業務上横領のよくある事例としては、以下のようなものがあります。
- 集金担当者が、回収した現金を持ち逃げしてしまう
- 会社経理担当者が、管理している会社の預金に手を出してしまう
- 会社の営業担当者が、架空の取引を計上して、手元にある在庫品をとってしまう
これらの事例では、いずれも、従業員が事故の管理下にある財産をそのまま自分のものにしてしまう点に特徴があります。まさにこのような類型の犯罪が、業務上横領となります。
また、役員も、会社財産への権限が強いため、自分のほしいままに自由に財産を使ってしまい、業務上横領に当たる行為をすることがあります。もちろん、会社の役員であっても、このような行為には刑事罰が下される可能性があります。
役員・社員による業務上横領が発覚した場合の会社の対処法
それでは、役員・社員による業務上横領が発覚した場合に、会社はどのような対応を取ればよいのでしょうか?
以下に、オーソドックスな事例に遭遇した際に会社が取るべき対応を示しますので、ご参考にしてください。但し、以下のものはあくまでオーソドックスな例で、個別の事例によって必要な対応は変わりますから、まずは弁護士にご相談されることをお勧めします。
証拠の収集
まずは、事実確認のために証拠を収集しましょう。特に、横領をしたと疑われる本人や関係者から話を聞く前に、客観的な証拠を収集することが重要です。なぜなら、先に事情聴取をおこなった際に、証拠がないからと言い逃れされたり、逆に証拠を隠されたりしてしまっては、真相が分からないままになってしまうからです。
横領の種類によりますが、防犯カメラ・監視カメラの映像、各帳簿、在庫管理書類等の客観証拠を収集しておく必要があります。ちなみにこの際には、上記のとおり証拠を隠されたり、証拠をねつ造されたりすることを防ぐために、帳簿等の改ざんのおそれのあるものを、犯人よりも先に押さえておく必要があります。
事情聴取
客観的な証拠を収集してから、関係者の事情聴取をしましょう。この際には、関係者に共犯者や事情を知りながら横領の事実を隠す者がいる場合があります。犯人と疑われる者に事情聴取をしていることを内通されないように、事情聴取を1日で一気に終わらせるなどの対策を取りましょう。
また、事情聴取をする際には、必ず録音等の記録を取っておくことをお勧めします。のちに、「言った。」、「言ってない。」といった言い逃れを許すことなく、かつ、被害届・告訴状提出や民事的な損害賠償請求の際に有力な証拠を確保するために、注意が必要です。
交渉・差し押さえ・損害賠償請求
上記のとおり、客観的証拠・関係者等の供述を収集できたら、いよいよ、犯人を相手方とする対応を取ることになります。
まずは、被害金・被害品について賠償請求・返還請求をすることが考えられるでしょう。相手方との交渉によって賠償・返還をする旨の誓約が得られるのであれば、相手方に返済義務を課す内容の合意書を交わしましょう。
相手方が交渉によって任意の支払いに応じないのであれば、損害賠償請求訴訟・差押えという対応も視野に入ってきます。この際には、これまでに収集した証拠が充分なものであるかどうかが重要となります。ぜひ、相手方に対する金銭請求をする前に、その準備段階から弁護士にご相談なさることをお勧めいたします。
業務上横領行為をした従業員等への対応については、以下の記事もご覧ください。
賠償請求したい懲戒処分
また、合わせて社内での処分も検討する必要があるでしょう。
業務上横領行為という故意の犯罪で会社財産に打撃を与えた場合には、懲戒解雇処分が視野に入ってきます。しっかりした懲戒処分を下すことで、社内で同じような行為をする社員が新たに出てくることも防げるでしょう。社内でも示しを付けることが大事です。
刑事告訴を検討
最後に、刑事告訴・被害届の提出をして、刑事手続を進めてもらうことも考えられます。やはり会社に対する犯罪には、断固たる姿勢を示すと共に、刑事罰を科すよう求めるべきと考える経営者の方は多いです。
この場合にも、やはり最初にお伝えした証拠が充分かどうかが重要な要素となります。警察は、証拠が足りない状態では、刑事告訴を受理しないという対応になりがちです。このような対応を取られることのないよう、ご注意ください。
業務上横領行為をはたらいた従業員に対する刑事告訴の仕方については、以下のページもご覧ください。
横領加害者を処罰するための刑事告訴の手続とは?関係者への説明
これらの対応が無事になされたら、関係者に対して事情を説明するとともに、ことの顛末をお伝えする必要もあるでしょう。
また、後任の従業員を含め、関係部署の社員には、業務上横領行為をはたらいた従業員に対してどのような対応を取ったのか示し、犯罪行為を萎縮させるべきです。
再発防止策の策定
株主等のステークホルダーに説明をする場合には、再発防止策も一緒に説明できると良いでしょう。もちろん、そもそも会社に更なる損害が発生しないようにする趣旨でも、再発防止策を策定しておくことは有用です。
どのような業務上横領行為が発生したかによって、必要な再発防止策は変わってきます。ぜひ弁護士にご相談いただき、弁護士と共に再発防止策をご検討ください。
業務上横領の会社の対応の注意点
上記の対応時に会社として注意するべき点をいくつかご紹介します。
事情聴取や交渉について
まず、事情聴取・交渉に際しては、従業員に対する話し方等には注意しましょう。思わず怒鳴ったり、攻撃的な発言をしたりしがちです。いくら犯罪によって被害を受けたからといっても、かえってあなた自身が強要・脅迫・恐喝などに該当するような言動をとってしまってはいけません。
どのような対応を取るべきかについては、ぜひ、事前に弁護士からのレクチャーを受けてください。
解雇について
また、従業員を解雇する際には、上記のとおり、業務上横領行為をしたことを示す証拠が必要です。従業員が業務上横領行為を否定してきた場合、解雇が無効となってしまう可能性があります。
一度行った解雇が無効となってしまうと、解雇したあとの期間の給与を支払う必要が生じてしまいます。ぜひ、安易に解雇する前に、弁護士にご相談ください。
賠償請求・返済について
被害金・被害品の賠償請求・返済を求める場合にも、同様に証拠の存否が重要な要素となってきます。
また、これらの請求をする際には、被害の総額を明らかにしておくようにしましょう。証拠収集する中で新たな横領が発覚することもありますから、ご注意ください。
刑事告訴について
刑事告訴する際には、如何にして警察に告訴状を受理してもらうかが勝負となります。この際に重要なのも、証拠の有無・内容です。
また、時系列を整理して相談に行くことや、被害内容を資料化して持っていくことなど、警察が捜査に着手しやすいように配慮することも有用です。
解決の長期化・時効について
また、損害賠償請求をするにも、業務上横領について刑事告訴するにも、期間制限があります。横領が発覚した際には、横領が長期的なものである可能性もありますから、早急に対応に着手しましょう。
横領の時効については、以下のページもご覧ください。
退職後に横領が発覚した場合の対応と予防策|時効はどれくらい?退職金はどうなる?業務上横領が発生した際の会社の対応に関するご相談
以上のとおり、業務上横領行為が発覚した場合には、裁判等の手続を見据えながら的確な証拠を収集することが非常に重要です。ぜひ、早期の段階で弁護士にご相談ください。
当事務所には、検察官経験のある弁護士も在籍しており、業務上横領の問題が発生した際にどのような対応が必要か、初動段階からフォローできる体制を構築しています。ぜひ、当事務所にご相談ください。
業務上横領と横領・着服・窃盗・背任の違い
さて、業務上横領には、構成要件が似ている他の犯罪もありますから、簡単にそれらとの違いをご紹介します。
横領罪との違い
まずは、単純な横領罪との違いです。
単純な横領罪は、「業務」ではなく保有する物品をとる行為に成立します。例えば、いったん預かった他人の財布を持ち逃げするような行為を指します。業務上横領罪とは、「業務」の有無で違いがあります。
着服との違い
ちなみに、「着服」は、横領行為の一類型を指します。横領と着服については以下のページをご覧ください。
横領と着服、背任、詐欺の違いについて窃盗との違い
窃盗罪は、自己の占有下にない物品を盗む行為に成立します。横領罪とは、「占有」の有無に違いがあります。横領罪と窃盗罪との違いについては、以下のページをご覧ください。
窃盗と横領の違いとは?未然に防ぐ方法を弁護士が解説背任との違い
背任罪は、会社物品を盗まずに会社財産に損害を与える行為に成立する点で横領と異なります。例えば、会社役員が、会社との間で会社に不利な契約を結んで損害を与える場合には、業務上横領罪ではなく背任罪が成立する可能性があります。
業務上横領罪の量刑
業務上横領罪の法定刑は、10年以下の懲役(令和7年4月1日以降は、10年以下の拘禁刑)となっています。このため、業務上横領罪を犯した場合、不起訴処分とならない限りは、罰金で済むことがなく、懲役刑が科されることとなります。
業務上横領罪を犯した場合の刑罰の重さは、被害金額、常習性の有無・程度、同様の財産犯の前科の有無、犯人の社内での立場(どの程度地位を利用したか)などによって定められますが、最も重要なのは被害金額です。裁判例を見てみると、被害金額が500万円を超えたあたりから、初犯(前科なし)であっても実刑が科される事例が見受けられるようになります。
但し、被害金額が高額であっても、犯人から会社に被害弁償がされたり、犯人と会社との間で示談(和解)がされていたりすると、執行猶予が付されていきなり刑務所に入らずに済んでいるケースも多いです。犯人からすれば、自分の刑罰を軽くするためにも被害弁償をするモチベーションが高くなることが一般的です。このため、会社として、犯人への厳重処罰よりも被害回復を優先するのであれば、積極的に弁償を求める働きかけも有用です。
なお、業務上横領罪は、犯行後7年以内に起訴されなければ公訴時効によって処罰されませんので、注意が必要です。