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2024年10月2日

交通費の不正受給のケース

 会社経営者として、交通費や出張費の不正受給がなされた場合には、どのように対処すれば良いのでしょうか?
 交通費の不正受給としては、以下のようなケースがあります。

  • ① 通勤定期を購入していたが、自家用車で出勤している
  • ② 通勤定期を購入していたが、実際の通勤経路と異なる(虚偽の住所を申告している)
  • ③ 出張費の請求が、実際には存在しない出張(空出張)の費用請求である
  • ④ 営業車用のガソリン代であると虚偽の申告をして、自家用車のガソリン代を請求している

 このようなケースに遭遇した場合には、企業としては厳正な対応をとることが必要となるでしょう。以下では、交通費の不正受給が発覚した場合の対処法についてご説明いたします。

詐欺罪・横領罪は成立するか

 それでは、交通費の不正受給時に、犯罪は成立するのでしょうか?
 結論からすると、上記の①から④の事例のような場合、交通費の不正請求として、詐欺罪(刑法246条)が成立する可能性があります。また、交通費の不正受給時には、横領罪(正確には、業務上横領罪)が成立する場合もあります。例えば、会社が事前に手渡したガソリン代利用のための小口現金を自家用車のガソリン代の支払に充てた場合などが横領罪となり得る典型例となります。
 いずれにしても、従業員が故意に(つまりわざと)交通費の不正受給・不正請求をした場合には、犯罪となり得るといえるでしょう。

不正受給が発覚したときに会社がとるべき対応

 それでは、不正受給が発覚した場合には、会社としてどのような対応をとるべきでしょうか。厳正な処分を下す可能性もあるため、以下のステップを踏んで対応していくことをお勧めいたします。
 なお、本来的には、事案に応じた対応を検討する必要がありますから、発覚後早期に弁護士に相談するべきと言えます。

① 証拠を収集する

 不正受給が発覚したとしても、客観的証拠がなければ、処分を下すことはできません。社内で処分の有無について検討する場合にも、経理担当者が「不正受給していると思います。」などと言っただけでは、処分決定できないでしょう。
 そこで、まずは客観的な証拠を収集することが重要です。

② 懲戒処分の有無・内容を検討できる方に報告する(体制を構築する)

 客観的証拠を確認した上で、社長等の懲戒処分の決定権者に対して事情を報告する体制を構築するべきです。交通費の不正受給に真っ先に気付く可能性があるのは、経理担当者ですから、経理担当者が気付いた際に、客観的証拠を確保してから報告するということをルール化しておくと良いです。
 この時は、従業員の過失や勘違いによる誤った請求かもしれませんので、処分を決定するための報告ではなく、今後の流れについて検討することと情報共有を目的とした報告とすることが重要です。
 なお、社長等の懲戒処分権者が自ら不正受給について気付いた場合には、そのまま客観的証拠の確認をして③に進むこととなります。

③ 本人に事実確認する

 その上で、本人に事実確認をしましょう。過失や勘違いによる誤った請求であれば、間違った請求分を返金してもらえば解決する話かもしれません。
 また、本人に言い分がある場合には、本人からも客観的証拠を提示してもらい、その言い分が正しいといえるか吟味しましょう。この際に客観的証拠として何を提示してもらうべきかは、ケースバイケースといえますから、弁護士にご相談してご判断されるべきものといえます。

④ 処分・対応について検討する

 交通費の不正受給の程度が酷い場合や、常習性が認められる場合などには、刑事告訴・民事上の返還請求・懲戒処分といった各種処分・対応をするべき場合があるかもしれません。客観的証拠・本人の言い分・本人の言い分の合理性などの各種事情を踏まえて、会社としてどの程度重い対応をするか、慎重に検討しましょう。
 特に、不正受給に関しては証拠の有無・内容が重要ですから、証拠上、どこまでの処分が許容されるかという視点が肝要となってきます。

不正受給を防ぐための対策

 さて、以上のとおり、不正受給が発覚した場合の対応方法についてご説明しましたが、そもそも不正受給を防ぐための対策も、事前に取っておくべきでしょう。
 例えば、万が一の場合に懲戒処分を下しやすいように就業規則を見直すことが考えられます。懲戒解雇相当の事実があった場合に、退職金の金額の全部又は一部を支給しない決定をできるようにしておくことも、有事の際には役立ちます。
 その他にも、交通費の不正受給がしにくいような体制として、経理担当者に対する交通費申請の管理方法を整備したり、システム化したりすることも役立つでしょう。

弁護士に相談

 いずれにしても、交通費の不正受給が発覚した場合には、早期に弁護士に相談するべきといえます。証拠として何があれば良いのか、懲戒解雇処分とすることは正当といえるのか、刑事手続きまでとる必要があるのか、など、検討を要する事項は多岐にわたります。
 ぜひ、交通費の不正受給・従業員の横領にお困りの場合には、当事務所へご相談ください。

【著者情報】


2001年 京都大学法学部 卒業

2014年 ボストン大学ロースクール修了(LL.M. in Banking & Financial Law)

北陸電力株式会社、検察官を経て、2007年に弁護士となる

以後約16年間シティユーワ法律事務所に所属し、2023年より弁護士法人グレイスにて勤務

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