2022年8月10日
2022年8月10日
Contents
1. 1000万円以上の横領被害に関する裁判例
従業員による横領行為は、何度か繰り返されたのちに発覚することも多いため、会社が調査に乗り出したときには、被害金額が1000万円を超えていることも少なくありません。被害金額が1000万円を超えている裁判例には、以下のようなものがあります。
①長野地裁平成29年10月17日判決
判決:懲役3年6月
被害金額:約1400万円
事案:リフォーム工事等を行う会社の従業員が、顧客から集金したリフォーム代金を着服したり、架空会社からの架空請求があったように装って請求書を偽造するなどして会社から現金をだまし取るなどの方法で不正行為を行った。
②札幌地裁令和3年3月12日判決
判決:懲役3年6月
被害金額:約2200万円
事案:デジカメ等の販売を行う会社の従業員が、3年間で56回にわたり、会社名義で多数のデジカメとノートパソコンを仕入れ、これを転売して利益を得ていた。
③千葉地裁平成31年3月19日判決
判決:懲役6年
被害金額:約8100万円
事案:経理事務担当者が、インターネットバンキングサービスを利用して、4年間で401回にわたり、会社の銀行口座から自分名義の口座に振込送金させて横領した。
このように、被害金額が1000万円を超えている事案では、原則として執行猶予の付かない懲役刑(実刑)が言い渡されています。
2. 被害金額と刑罰の関係
さきほどの裁判例からもお分かりかと思いますが、横領や詐欺のような財産犯と呼ばれる犯罪の場合、被害金額が大きくなると懲役刑が長くなり、実刑になる傾向があります。反対に、被害金額が数百万円の場合には、執行猶予付きの懲役刑になることもあります。
ただ、被害金額が1000万円を超えていても、その大半が弁償されている場合には執行猶予が付くこともあり、他方で被害金額が数百万程度でも、動機や犯行方法が悪質な場合には実刑になる場合もあります。
刑罰は、まずは被害金額の大小で大枠が決まりますが、そのほかにも多くの事情が考慮された上で決められていくといえます。
3. 多額の横領金額の返還を求めたい場合の会社の対応
裁判例でも見たように、横領金額が多額になると、実刑判決を受ける可能性が高まります。
横領した従業員の中には、このようなことを何となく感じ取り、証拠の隠滅や捏造をしたり、会社の追及に対して否認したりする人もいます。
また、警察も、被害金額が多額の事件については、逮捕をする可能性があり、また、実刑判決になる可能性があることから、より慎重に捜査をすることになります。
そのため、被害金額が多額になりそうな横領が発覚した場合には、すぐに弁護士に相談し、適切に証拠を集めて、横領した従業員との交渉や、警察への捜査協力の準備を進めていく必要があるといえるでしょう。