2022年2月10日
2025年12月22日
警察と横領の関係(横領事件の優先度)
横領・業務上横領は刑法上の犯罪であり、警察の捜査対象となります。ただし、警察が扱う事件は多岐にわたります。このため、警察がすべての事件に均等なリソースを割くことはできないので、横領事件については、捜査の優先度が下がってしまいがちです。
また、業務上横領が成立するためには、単なる金銭・物品の持ち去りの事実以外の要件も満たす必要があります。このためには、会計書類や取引記録などを一つ一つ確認するなど、多大な労力のかかる複雑な捜査が求められます。この捜査コストの高さも、警察が慎重になる一因です。
横領は、元々密室で行われがちな犯罪ですから、そもそも証拠が見つけにくい・残りにくい犯罪でもあるのです。横領加害者の狙い通りになることのないよう、警察を動かし、捜査を進めてもらうためには、以下の点にご注意ください。
横領で警察が動かない理由
警察が被害届や告訴状の提示を受けても、すぐには本格的な捜査に動かない(または告訴状の受理すらしない。)ことがあります。この主な理由は、以下のとおりです。
証拠不足
まず、証拠不足で横領の立件が難しいと考えられることが、警察が動かない最も大きな理由です。最終的に刑事事件で有罪とするためには、犯罪の事実(いつ、誰が、何を、どのように横領したか)を、合理的疑いを差し挟む余地なく証明できる証拠が必要です。横領事件は、密室で起きたり、共犯者間で綿密な打ち合わせがなされたりして行われることが多いです。このため、充分な証拠が残っていることが少ないのです。
金額や社会的影響が小さい
次に、横領事件の被害金額や社会的影響が小さいことも、警察が動かない理由として挙げられます。 横領を担当する部署(捜査2課、知能犯係)における最大の課題は、その件数・被害額・被害の深刻さ・社会的影響の大きさから、特殊詐欺事件となります。特殊詐欺事件の被害は、年々増加の一途を辿っています。このため、どうしても会社内の横領は優先順位が低いと判断されてしまうのです。とりわけ、民事事件での被害回復が可能な場合や、会社経営への影響が小さい横領事件ですと、優先順位は下がってしまうことがあります。
民事扱いにされるケース
横領事件が会社内部で起きる事件であるため、警察が民事不介入の原則を主張するケースもあります。警察は、横領被害を主張する会社に対し、「民事裁判で被害金の返還を求めること」を勧め、刑事事件の捜査を進めてくれないことがあるのです。 警察がこのように主張する理由の多くは、上記のような証拠不足、被害金額・特殊詐欺事件などと比較した際の社会的影響の小ささにあります。上記のとおり、警察が限られたリソースをどこに配分して犯罪に立ち向かうかという問題がありますので、民事事件で解決できるなら民事事件で、と考えられるのです。
被害発生から長期間経過している
横領の被害発生から長期間が経過しているような事案においても、警察は捜査に着手しない場合があります。これは、被害発生からの時間が経過していることによって、以下のような問題が発生しているからです。
- 証拠の散逸:当時の書類やデータが破棄・散逸している可能性が高く、証拠の収集が困難になります。
- 記憶の曖昧化:関係者や従業員の記憶が薄れ、正確な供述を得ることが難しくなります。
- 公訴時効:業務上横領罪は7年(刑法253条)、単純横領罪は5年(刑法252条1項)です。時効が迫っている場合や既に完成している場合は、捜査しても起訴することが困難になります。
これらの問題が起きるほどに横領被害を放置する経営者はいないでしょう。しかしながら、横領被害に気付くのが遅れ、気付いた時には同様の行為が数年~十年以上継続していたという場合には、このような問題に直面することもあります。普段から横領被害に早期に気付く体制を構築することが重要といえます。
警察に動いてもらうには
以上の理由から、警察に事件として認識させ、捜査をスムーズに開始してもらうためには、被害者側で刑事事件として立件する準備を徹底的に行うことが重要といえます。以下、必要な準備活動について解説します。
弁護士に相談する
まず、横領事件の被害に遭った場合、できる限り早期に弁護士に相談しましょう。これが、警察に動いてもらうための最も重要な第一歩です。 弁護士は、集めた証拠・聴取した情報から、どの犯罪(横領罪、窃盗罪、詐欺罪、背任罪など)に該当するかを法的に整理し、警察への最適なアプローチを戦略的に検討することができます。 ここで特に重要なのは、警察が動かない最大の原因である証拠不足の解消です。弁護士であれば、横領事件が起きた際にどこに証拠があることが多いか、経験から的確なアドバイスをすることができます。
有用な証拠を揃える
また、警察を動かすには、被害届や告訴状に添付する確実かつ有用な証拠が必要です。横領の事実を示すような証拠は、様々あります。
① 金銭の流れを示すもの
- 銀行の入出金明細、会計帳簿、領収書、請求書、レジのデータなど
② 横領行為自体を示すもの
- 当該従業員による不正な取引や金銭の持ち出しを示す記録、従業員名義の口座への入金記録など
- 従業員間や、従業員・取引先間のLINEやメール等のやり取りなど
- 防犯カメラ映像等の直接的な記録など
③ 物品の流れを示すもの
- 在庫管理票、棚卸しの記録など
これらの有用な証拠を揃えてから警察に働きかけることが重要です。どのような証拠があれば充分であるといえるかは、弁護士に事前に相談して検討するべきです。
弁護士から告訴状を提出する
また、弁護士から警察等の捜査機関に告訴状を提出することも有用です。告訴状を提出すると、警察等の捜査機関は、捜査を開始することとなります。
ただし、警察は、証拠が不充分であったり、記載が不明瞭であったりする告訴状は、受け取ってくれません。警察が告訴状を受理しないこともあり得るのです。告訴状を作成する際には、警察が告訴状を受理するように、以下の事項に注意する必要があります。
① 刑法上の要件を満たす事実を過不足なく記載する
② 裏付けとなる証拠を添付資料として提出する
これに加えて、弁護士が警察との連絡窓口となることで、警察への進捗確認をスムーズに行うことができます。警察に事件を放置されることのないように、弁護士から適宜連絡を入れることが重要なのです。
告訴から逮捕の流れ
弁護士を通じて提出した告訴状が受理され、警察が本格的な捜査に動き始めると、その後の一般的な流れは以下のようになります。
① 告訴状の受理・捜査開始
警察は告訴状を受理すると、捜査に着手します。 警察は、被害者(告訴人)や関係者から事情聴取を行い、告訴内容の真偽を確認し、証拠を整理していきます。また、加害者(被疑者)への任意の聴取や、証拠の捜索・差押えなどが行われます。
② 逮捕・取調べ
捜査の結果、被疑者が罪を犯したといえる相当な理由があり、かつ逃亡や証拠隠滅のおそれがあると認められる場合、逮捕状が請求され、被疑者は逮捕されます。 逮捕後、警察は、48時間以内に事件と被疑者の身柄を検察官に送致(いわゆる送検)するかを判断します。なお、逮捕されないままに捜査が進んだ場合は、捜査書類だけ検察官に送致されることとなります(いわゆる書類送検)。
③ 送検と勾留請求
送検された後、検察官は、被疑者を引き続き留置する必要があると判断した場合、24時間以内に裁判所に勾留を請求します。 裁判官が勾留を認めると、原則10日間(延長されると最大20日間)身柄が拘束され、検察官による取調べが続きます。この間に、被疑者と被害者との間で示談交渉をすることが多いです。
④ 起訴・不起訴の判断
検察官は、勾留期間満期までに集めた証拠に基づき、被疑者を刑事裁判にかけるか(起訴)、それとも処分をしないか(不起訴)を最終的に決定します。 不起訴処分となるのは、犯罪の嫌疑が不十分又は全くない場合、起訴猶予(犯罪の嫌疑は認めるが、様々な事情を考慮して起訴しない)の場合です。
⑤ 裁判
ちなみに、被疑者が起訴された場合、刑事裁判が開かれます。起訴後は被疑者を被告人と呼ぶようになります。被告人は公開の法廷で罪を問われることとなり、証拠に基づいて判決が下されます。 なお、被疑者が罪を認めており、かつ、被疑者への求刑・判決が罰金であると見込まれる場合には、被疑者の同意を得た上で、略式手続による裁判が行われる場合もあります。この場合は、裁判が公開の法廷で行われることはありませんので、注意が必要です。
まとめ
以上のとおり、横領で警察が動かない理由と捜査に進ませる方法について解説しました。横領事件で警察が動かないことには、主に、「立件できるだけの確実な証拠がない」、「特殊詐欺事件などに比べて被害の深刻さ・社会的影響が小さい」、「民事事件として見られてしまう」という3つの理由がその背景にあります。警察に捜査を促し、事件を動かすためには、上述した対応を取ることが重要です。
これらの対応を取ることで、警察は横領事件を単なる「被害の相談」としてではなく、「立件可能な刑事事件」として認識し、捜査に着手する可能性が飛躍的に高まります。被害者が感情的になるだけでなく、確実な証拠を持って冷静に対応することが、加害者の処罰と被害回復への道を開きます。その上では、ぜひ弁護士の助力を得てください。
当事務所では、多くの企業顧問案件を扱うほか、横領被害の回復・横領への対応にも特化して業務を行っております。横領被害に実際に遭われた場合や、横領被害のおそれがある場合など、お気軽に当事務所にご相談ください。あなたの企業からのご相談を、お待ちしております。