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2022年1月12日

1. 従業員から話を聞きましょう。

従業員の不正に関する客観的証拠を集めた後は、いよいよ不正をした従業員から話を聞くことになります。やはり、事案の真相を解明するためにはなんと言っても、実際に不正をした従業員から話を聞くことがとても重要だからです。

しかし、ときには、準備が不十分なまま話を聞き始めた結果、言い訳を考えられてしまい、その言い訳を潰す材料が見つからないような場合もあるでしょう。

そのため、可能であれば最初から、訓練と経験を積んだ弁護士に相談し、従業員の事情聴取に同席してもらうのがよいと思います。

では、そのような弁護士は、いったいどのようにして、事情聴取に臨むのでしょうか。その手法の一部をご紹介します。

2. 客観的証拠の内容を叩き込む!

まずは、手元にそろった客観的証拠の内容を、徹底的かつ正確に、頭の中に叩き込むことが重要です。想像してみてください。たとえばあなたが被疑者として、警察官の取調べを受けることになったとしましょう。あなたが質問に答えるたびに、警察官が手元の資料を確認していたとします。おそらくあなたは、「この警察官は、事件のことをあまりよく分かっていないようだ。」と感じるはずです。そうすると次に、「こういううそをつけばごまかせそうだ。」などと考え始めることでしょう。不正をした従業員からの事情聴取も同じです。その従業員から、「この人は、自分がしたことのほんの一部しか分かっていない。」という印象を持たれてしまったが最後、うそをつかれてしまい、最悪の場合、そのうそを見抜くこともできず、不正を追及できなくなるかもしれません。

このような事態に陥らないよう、まずは、事情聴取を始める前に客観的証拠の内容を正確に把握することが必要です。そして、事情聴取をしている間の資料の確認は、必要最小限にとどめることが基本です。

3. 質問の内容や順番を考え抜く!

不正を認めない従業員に対し、「会社のお金を横領したでしょう。」と直球の質問を繰り返したとしても、なかなか認めることはありません。あらかじめ、どのような質問を、どのような順序でしていくかを練りに練っておくことが、とても重要です。

たとえば、店から商品を持ち出し、隣町にある質屋で換金するという横領行為を繰り返している従業員がいたとしましょう。経営者であるあなたは、従業員の行動を見張ることにより、質屋を突き止めることができました。ここで、経営者であるあなたと従業員の、2種類のやり取りを見てみましょう。

【悪い例】

あなた:店から持ち出した商品を、あの店で換金しているね。

従業員:たしかに換金しましたが、自分の物を売っただけです。

あなた:本当に自分の物か。本当は、店から持ち出したんだろう。

従業員:自分の物です。

あなた:でも、その店の従業員は、君が何度も店に来たと言っているよ。何度も換金に行くのはおかしいだろう。本当は、店から何度も商品を持ち出して換金したんだろう。

従業員:何回かに分けて換金したので、何回も行くことになりました。

これでは、いつまでたっても押し問答が続くだけになりそうです。

【良い例】

では、次のようなやり取りはどうでしょうか。括弧内には、質問のポイントを書いています。

あなた:隣町にある〇〇という店って知ってる。

従業員:え、〇〇ですか?知りませんね・・・。

あなた:そうか。その店の近くで、君に似た人がいるのを見たという人がいたのだけど。(あなたは事前の聞き込みで、従業員が何度かその店の付近にいたことを突き止めていました。)

従業員:ああ、思い出しました。一度行ったことがあります。

あなた:その店に行ったのは一度だけなんだね。
(店に行ったのは一度だけだということを念押しします。)

従業員:そうですね。

あなた:何をしに行ったの。
(従業員がその店で換金していることについて、あなたは知らないかのように装っています。)

従業員:自分の物を売りました。

あなた:それだけ?
(ここでも、店に行ったのは一度だけということをさらりと念押しします。)

従業員:そうですね。

あなた:店の人に聞いたら、君は何度かその店に来たことがあると言っていたよ。
(事前に店の人に聞き込みをしておきます。その従業員が、何回も来店するうちに店の人と親しくなり、プライベートに関しても話すようになったという情報が出てくればラッキーです。)

従業員:人違いじゃないですか。

あなた:その店の人は、君の趣味が××であることとか、△△に旅行に行ったこととか、君のことをいろいろ知っていたよ。本当に一度しか行ってないの。

従業員:・・・。

どうでしょうか。このように詰められていくと、不正をした従業員は、ごまかしきれないと思うのではないでしょうか。このような質問を繰り返すことにより、「うそは突き通せない。」と思わせて、真実を話させることができる場合もあるでしょう。

4. 「盗人にも三分の理」の精神を!

会社の大切なお金を横領された場合、激しい憤りを覚えることは当然のことと思われます。

しかし、感情的に追及しても、不正をした従業員も感情的になってやり返してくるだけかもしれません。

ここで一呼吸置き、その従業員が不正をした背景には、その人なりの事情があるのかもしれないという態度で接していくことも、ときには有効です。

不正をした従業員に、「自分のしたことは全て見通されている、それでもこの人は、自分がなぜそのようなことをせざるを得なかったのか、分かってくれている。」、そんな思いを抱かせれば、真実を話してくれることもあるかもしれません。

5. 弁護士に任せてみませんか

ここでお伝えしたことは、不正をした従業員から話を聞く手法のほんの一部です。不正をした従業員からよりよい話を引き出すためには、事案ごとに知恵を練っていく必要があります。また、客観的な証拠が乏しく、不正をした従業員の話を聞くことこそが重要な事案もあります。より効果的な事情聴取を実現させるために、訓練と経験を積んだ弁護士に相談してみることをお勧めします。

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【著者情報】


2001年 京都大学法学部 卒業

2014年 ボストン大学ロースクール修了(LL.M. in Banking & Financial Law)

北陸電力株式会社、検察官を経て、2007年に弁護士となる

以後約16年間シティユーワ法律事務所に所属し、2023年より弁護士法人グレイスにて勤務

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