2025年8月22日
2025年8月22日
従業員による横領・着服・窃盗や、経費の虚偽報告・情報漏洩など、従業員による不正行為の例を挙げればキリがありません。皆さまは、このような不正行為を他人事だと思っていませんか?
うちの企業では起こらないだろうと高をくくっていると、従業員による不正を野放しにしかねず、また、いざ不正行為が発覚した際の対応に苦慮することとなります。この記事では、従業員の不正行為の防止策と発覚後の対応について、弁護士の視点から解説していきます。
従業員による不正行為の事例
まずは、授業員による不正行為の事例についてご紹介します。以下のとおり、規模の大きな超有名企業でさえ、従業員による不正行為に悩まされています。
横領・着服
まず最も起きやすいのが、横領・着服といった、会社財産で私腹を肥やす行為です。
業務上横領事件
令和7年2月には、大手電機メーカーのグループ企業において、ある従業員が、8年間にわたってパソコンを着服するといった不正行為を行っていたことが明らかにされました。発表によれば、損害額は2億円程度に昇るとのことです。
この従業員は、顧客からの注文を装ってパソコンを仮想受注し、その後パソコンを転売して利益を得ていたようです。従業員には懲戒解雇処分が下されたようですが、会社の損害は甚大です。
背任
次に注意が必要なのが、取締役等の役員などが自己又は第三者の利益を図る行為をしてしまい、会社に損害を与える場合です。これを、背任(取締役等の役員の場合は特別背任罪)といいます。
法人カード私的使用・背任事件
大手自動車メーカーの某会社でも、従業員が法人契約していたクレジットカードを私的利用してしまい、結果として会社に合計1億円程度の被害を出した事件に見舞われています。
この従業員は、平成31年4月から令和4年12月までに法人名義のクレジットカードを指摘に2000回以上利用したようです。ここまで不正利用が多数・多額にわたっても、会社はなかなか気付けないことに驚きがあります。これは、当該従業員が経理担当事務だったからでしょう。
情報漏洩
また、昨今は、従業員による情報漏洩も増えています。不正競争防止法や不正アクセス禁止法に違反するような犯罪に当たるものもあります。
個人情報漏洩事件
大手通信企業の子会社でも、令和5年10月頃に、コールセンターシステムの運用保守業務従事者が顧客情報を第三者に流出させていたとの発表がありました。被害件数は900万件に及びます。
こういった個人情報の漏洩・流出は、被害額を算定することができないほどの大きな損害を会社に与えます。まさに目に見えない「信用」が害されてしまうのです。
水増し請求
更に、水増し請求が不正行為の出発点になっている場合もあります。水増し請求は、横領・着服や背任はもちろんのこと、様々な不正行為に繋がります。
元社員による工事代金水増し詐欺
令和元年11月には、大手小売企業のグループ会社の従業員が、取引先に工事代金を水増し請求させた罪(詐欺罪)で逮捕されたとの発表がなされています。事態を知った会社自ら従業員を刑事告訴して刑事手続を求めたようです。
勤務時間の虚偽報告
最後に従業員による勤務時間の虚偽報告の例も挙げます。勤務時間外まで就労したことと申告して給料を不正に多く取得する行為は、他の従業員にも判明しやすいので、社内全体の士気を下げるとともに、他の従業員による同様の行為を誘発します。
タイムカード不正打刻
近時は、大手オフィス機器販売会社におけるタイムカードの不正打刻が疑われた事例が有名です。この事案では、タイムカードを不正に打刻した疑いがある従業員を懲戒解雇したところ、のちに当該従業員から裁判を起こされ、従業員に復職と1300万円の支払いを命じられることになっています。
適切な証拠を確保しないままに懲戒解雇処分を下すと、労働者から手痛い反撃を受けますから、非常に慎重な対応が求められるところです。
不正行為が疑われるサイン
このような不正行為が起きる際には、以下のようなサインがありますから、日頃からの注意深く従業員に目を配る必要があります。
金銭・書類関連の異変
まずは、金銭・書類関連の異変が疑われるサインが挙げられます。これらの兆候が見られた場合には、すぐに横領などを疑うべきでしょう。但し、金銭の出入りや書類はいずれも従業員であれば一定の改ざんが可能ですから、これらの兆候が無いからといって安心していい訳ではないことにもご留意ください。
- 帳簿や伝票の不整合
売上や仕入れの記録と実際の在庫数や入出金が一致しなかったり、不自然な修正が多く見られたりする。 - 不明な出金・入金
経費として記載されている領収書の内容と金額が合わなかったり、使途不明な出金が頻繁にあったりする。また、理由もなく顧客からの入金が遅れたり、特定の顧客からの入金が不自然に少なかったりする。 - 在庫の不一致
在庫管理システム上の数値や在庫管理帳の記載と実際の在庫数が大幅に異なる。特に高額な商品や人気商品の在庫が合わないことが多い。
勤怠・業務記録の不審
次に、勤怠管理・業務記録に不審な点が見られる場合が挙げられます。これらの記録に不審な点がある場合には、従業員による給料の水増し請求などが疑われます。
- 不自然な残業時間の増加
記録上、特定の従業員が常に長時間残業しているにもかかわらず、その業務内容が不明確であったり、時間に合った成果物が見られなかったりする。 - 業務日報の記載内容と実際の業務の乖離
業務日報に記載された内容が曖昧(時間に合った成果を伴っていない)であったり、実際の業務と明らかに異なっていたりする。 - 休日出勤の多発
業務の必要性が低いにもかかわらず、特定の従業員が頻繁に休日出勤し、その際に特定の業務(例:経理処理、データ入力)を行っている。こちらは、給料の水増し請求のほか、横領行為等のもみ消し作業を行っていることの表れである場合もあります。
社内での行動・態度の変化
また、不正行為をはたらく従業員は、社内での行動や態度も変わっていくことが多いです。以下のようなサインには注意しましょう。
- 金遣いが荒くなる
横領・着服によって羽振りが良くなった様子が見受けられる。特に、夜な夜な飲み歩いたり、身に付けている物が急に高価になったりしている。 - 特定の業務への過度な執着
経理業務・帳簿管理を他者に行わせないなど、特定の業務に執着し、それを独占しようとする。 - 態度が攻撃的になる
不正を隠蔽しようとする心理状態から、周囲への態度が攻撃的になる。特に、上司への態度が攻撃的になる。
IT・システム面の異常
最後に、IT・システム面での異常から従業員の不正が発覚する場合があることにも注意が必要です。経営者自身がこれらのシステムを管理するというよりは、信頼の置ける方にこれらのシステムの異変に気付くよう依頼しておくべきです。
これらの異変があった場合には、情報漏洩がなされているおそれがあります。
- 不明なシステムへのアクセス履歴
業務上必要がないと思われるシステムやデータベースにアクセスしている記録が残っている。 - 業務用PCからの通信履歴
社内の又は業務用のPCから、メールやLINEと用いて、業務上必要のない第三者に通信をしている履歴が残っている。 - 大量のデータダウンロード履歴
業務上必要な範囲を超えて、顧客情報・技術情報など、大量のデータがダウンロードされた履歴が残っている。
事前できる不正行為への対策
こういった不正行為がなされる前に、以下のような対策を講じておくと、不正行為自体を防ぐことができる場合も多々あります。ぜひ、弁護士の助言も得ながら、適切な対策を取ってください。
業務の属人化を避ける
まずは、業務が属人化することを避けましょう。経理業務・帳簿管理・在庫品管理などを一人の人間に任せてしまうと、それだけでも不正の温床を作り出すことになります。
これらを複数人の管理体制にするだけでも、
経理・勤怠・発注の“見える化”
同様に、経理・勤怠管理・受発注を“見える化”しましょう。いずれについても担当者以外の者が管理状況を見て分かるようにしておき、透明性を確保することができれば、不正の事前抑制を図ることができます。
社員教育・研修の実施
また、社員に対する研修会を実施して実際の不正行為の例を伝えるとともに、会社から損害賠償請求を受ける可能性や刑事手続の行く末などを教えることも重要です。不正行為防止のためのマニュアルを作成してその周知活動を徹底するのも有効でしょう。
定期的な内部監査
定期的に内部監査を実施して不正防止・不正の早期発見に努めることも重要です。顧問弁護士の協力を得て顧問弁護士に監査を実施してもらうなどすれば、従業員への抑止力が最大限確保できるとも考えられます。
従業員による不正行為が発覚した時の対応
それでは、従業員による不正行為が発覚した時の対応についてもご説明します。やはり、まずは弁護士にご相談されることが必要でしょう。
証拠確保
最初に、客観的証拠を中心に、証拠の確保に努める必要があります。証拠を確保できなければ、その後の各種裁判・刑事手続において、上記の富士ゼロックス社の例同様に、会社が不利な状況に置かれてしまう可能性があります。
顧問弁護士へ相談
これと併行して、顧問弁護士と対応を協議しましょう。顧問弁護士であれば、あなたの企業・業界の状況を正しく理解した上で対応方法についての助言をしてくれるでしょう。
もし顧問弁護士が居ない場合には、早急に顧問弁護士を依頼しておくことをお勧めします。問題が起きてから信頼できる弁護士を探すのでは、時間が掛かりすぎてしまいます。
懲戒処分・刑事告訴
その上で、当該従業員への懲戒処分や刑事告訴を検討しましょう。
もちろん、不正行為によって会社に損害が出ていれば、その損害額の賠償を請求することも考えられます。いずれにしても、弁護士のアドバイスを受けながら対応を決するべきといえます。
まとめ
以上のとおり、従業員の不正行為の事例をご紹介した上で、事前予防策・発覚後の対応策についてご説明しました。当事務所では、企業顧問を多く扱うかたわら、横領被害への対応を重点的に扱っています。お困りの際・お悩みの際は、実際に不正行為に遭う前に、当事務所にご相談ください。