2025年1月14日
2025年10月7日
従業員の業務上横領は、どの企業にとっても起こりうる深刻な経営リスクです。
このような悩みを抱えていませんか?
- ある従業員の金遣いが急に荒くなった。横領かもしれないが確信がない。
- 在庫や現金が計算と合わない。何から調査すればいいかわからない。
- 本人に直接問いただしたいが、証拠を隠されたり、しらを切られたりしそうで怖い。
- 証拠がないまま解雇して、「不当解雇」で訴えられないか心配だ。
こうした状況で、焦って行動を起こすのは大変危険です。
本コラムの結論を先にお伝えすると、業務上横領が疑われる場合に会社がとるべき最善の策は「何よりも先に、客観的な証拠を冷静に集めること」です。
なぜなら、証拠が不十分なまま従業員への聞き取りや解雇といった対応を進めてしまうと、損害賠償請求で敗訴したり、懲戒解雇が無効になったりと、会社がさらなる損害を被るリスクが非常に高いからです。
では、具体的にどのような証拠を、どうやって集めれば良いのでしょうか。また、有力な証拠が見つからない場合は、泣き寝入りするしかないのでしょうか。
この記事では、業務上横領問題でお悩みの経営者・管理職の方に向けて、証拠の集め方と証拠がない場合の対応について詳しく解説します。
- この記事でわかること
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- 横領を立証する「客観的証拠」の具体的な集め方
- 有力な証拠が見つからない場合に会社がとるべき対応
- 事態を悪化させる、会社がやってはいけないNG行動
- 証拠が不十分な場合に会社が被る深刻なデメリット
目次
業務上横領の証拠の集め方〜客観的証拠を集める〜
まずは客観的証拠を集めることに集中してください。客観的証拠を集めることで、犯人に言い逃れできなくさせるとともに、証拠隠滅・証拠隠しをできないようにするのです。
客観的証拠を集めたのちに、関係者等からの事情聴取に移ります。
監視カメラを確認する
客観的証拠の中でも最も強力なのが、動画・映像です。例えば在庫管理の倉庫に監視カメラ・防犯カメラなどがある場合には、まずこの内容を確認しましょう。また、業務上横領が疑われる場合には、商品・現金等を管理する場所に監視カメラを設置することをご検討ください。
監視カメラに客観的に横領行為が移っていれば、これに勝る証拠はありません。犯人としてもなかなか言い逃れができないでしょう。
架空・偽装の契約書等の書類を探す
また、業務上横領をした場合には、何らの取引もないのに商品・現金等が減少することとなります。犯人としては、犯行が発覚しないように架空・偽装の取引を作出し、架空・偽装の契約書、注文書、見積書等の書類を作成することが多いのです。
業務上横領が疑われる場合には、当該従業員がそういった取引を操作可能な取引先をピックアップし、
送金履歴を確認する
更に、業務上横領によって会社の現金・預貯金が無くなっている場合には、不注意な従業員は、自己名義の口座宛ての送金履歴を残していることがあります。
また、取引先と結託して架空取引を作出するため、当該取引先に一時的な送金をしている場合もあります。このような場合には、特定の取引先への送金量が多くなっているはずです。
これらの証拠が残っていないか、送金履歴を確認することが重要です。銀行の送金履歴は犯人には隠滅のしようがない証拠ですから、有力な証拠として機能します。
事情聴取を行う
以上のような客観的証拠を確認・収集してから、初めて、事情聴取を行うことができるといえます。とにかく、事情聴取時には、その後の証拠隠滅・証拠隠しをできないように充分な証拠を集めておきましょう。
また、事情聴取をする場合にも、周辺者からの事情聴取で外堀を埋めてから犯人と思しき従業員からの聞き取りをすると効果的です。こうすることで、口裏合わせをされるリスクを減らすことができます。
業務上横領罪の証拠が見つからないときの会社の対応
それでは、証拠が見つからないときには、会社としてどのような対応を取るべきでしょうか。
従業員の動向を確認する
まずは怪しい従業員の動向を確認することが挙げられます。
当該従業員に悟られることのないように注意しながら、日々の行動・金遣いが荒くなっていないかといった点を確認しましょう。特に、一度金遣いが荒くなってしまった犯人は、また同じように業務上横領をする傾向があります。その場面を押さえて証拠を獲得できるようにしましょう。
費用がかかりますが、探偵を雇われる方もいらっしゃいます。
弁護士に依頼する
そのような監視をしても証拠が掴めない場合には、弁護士に相談・依頼して証拠収集方法について指南を受けると良いでしょう。
当事務所では、検察官経験のある弁護士を筆頭に、業務上横領の被害を受けた会社のご相談に応じています。捜査機関として各種の証拠を収集してきた経験・実績がありますから、あなたの会社の被害についてどのような証拠をどのように集めることが考えられるか、専門的知見からアドバイスいたします。
業務上横領で証拠が見つからない理由
さて、このように噂にさえなることの多い業務上横領が、なぜ証拠がないという事態になってしまうのでしょうか。以下の3つの理由が挙げられます。
記録が不十分
まず、そもそも記録が不十分であることです。在庫品の管理がずさんであったり、現金出納簿が存在しなかったりするなど、会社によってはそもそもの財産・商品管理の記録が不十分なことがあります。
このような場合には、業務上横領によって現金や商品がある程度減っても、何ら記録上の証拠が残らないため、のちに困ることとなります。犯人からしても、そのような状況であれば安心して犯行に及べることとなってしまい全く抑止力が働きませんから、このような会社は、ぜひ社内の体質改善をご検討ください。
管理体制の不備
また、例えば現金管理担当者が1名しかおらず、それ以外の方が誰も現金管理の内容を把握していないなど、管理体制に不備がある場合も挙げられます。
このような場合に唯一の管理担当者が業務上横領をしてしまうと、管理記録の改ざんから財産の流出まで楽々行うことができてしまうでしょう。このような体制事態に、業務上横領を容易にする要因が、そして証拠が残らない要因があるといえます。やはり、社内体制の改善が必要といえるでしょう。
証拠隠滅や改ざん
最後に挙げられるのが、犯人による証拠隠滅や改ざんがある場合です。例えば在庫管理が手書きの書面にて行われている場合には、犯人が在庫数をごまかすことは非常に容易です。手書きの書面を書き直せば良いからです。
この問題も、証拠隠滅・改ざんが容易な証拠しか残らないという意味でも、広い意味では記録が不十分である・管理体制に不備があるという問題としてあげられるでしょう。このように、業務上横領で証拠がない場合には、会社の管理状況全体に問題があることも多いのです。
業務上横領で証拠不十分となった場合のデメリット
業務上横領に当たる行為を従業員が行ったと思われるのに、証拠不十分と扱われたとすれば、会社経営者としてこれほど理不尽なことはないでしょう。
業務上横領の被害に遭われたケースでは、事態が発覚した際に社内での解決を図ってしまい、証拠収集をする前に、拙速に周囲の他の従業員に相談したり、本人からの事情聴取を行ったりするケースが多いです。
このような場合には、本人が事実を認めない限り、かえって証拠隠滅される危険等が生じてしまいます。更には、充分な証拠を集めないままに、その従業員を解雇してしまう場合もあります。
このような、業務上横領で証拠が足りない・不充分であるケースでどのようなデメリットがあるのか、まずはご紹介します。
民事訴訟の損害賠償請求で勝てない
まず、民事訴訟の損害賠償請求で勝てないことが挙げられます。
従業員が業務上横領をしたとすれば、会社としてまず考えるのは被害金額の回復でしょう。現金を横領されたのであればその返還を求めるでしょうし、在庫品等の商品を横領されたのであればその物品又は被害額の返還・支払いを求めるはずです。
このような手続で、業務上横領が行われた事実や被害金額について証拠が不充分ですと、民事訴訟で裁判官を説得する力に欠け、敗訴してしまうこととなります。
刑事事件で受理されない
また、業務上横領を行った従業員に対して刑事罰を科そうとしても、刑事告訴・被害届が受理されない場合も想定されます。
警察等の捜査機関は、一定の証拠を伴う告訴状・被害届が提出されて初めて捜査に乗り出すこととなります。不十分な証拠を持って捜査機関に相談等に行ったとしても、門前払いをうけてしまって何らの刑事手続も始まらず、当該従業員に何らの処分も下されないことが懸念されます。
懲戒解雇が認められず不当解雇にされる
更に、懲戒解雇が認められず不当解雇として扱われることとなります。
従業員を懲戒解雇した場合、従業員からすると、のちにその解雇が不当なものであると主張し、会社を相手方とする労働審判・民事訴訟を提起することができます。ここで業務上横領の証拠が充分になければ、労働審判や民事訴訟で敗訴してしまうこととなります。
このような場合には、従業員に対する懲戒解雇が不当解雇であるとして無効になり、解雇後の賃金を全額支払うこととなります。不当な解雇で従業員が働くことを不可能としたものとして、働けなくなった期間の賃金を支払うことが義務付けられてしまうのです。
業務上横領の疑いの際に会社がしてはいけないこと
さて、それでは、業務上横領の「疑い」がある場合に会社がしてはいけないことはなんでしょうか。やはり、以下のような行為を証拠が揃っていない場面で行うことは不適切でしょう。
証拠がないのに事情聴取を行う
本当に多くの会社が、業務上横領の疑いが生じた時点で、本人とその周囲の従業員から事情聴取を行ってしまいがちです。
しかしながら、充分な証拠がなければ犯人には「何も知りません。」と言われた際の武器が何らありませんし、周囲の従業員には、共犯者・犯人の味方側に立つ者がいてもおかしくないのです。このような状況で事情聴取を行ったとしても、かえって犯人である従業員が証拠を隠したり、誰かと口裏合わせをしたりするための時間を確保してしまうだけとなります。
事実確認が取れない段階での解雇予告
また、事実確認が取れない段階で、業務上横領をした疑いのある従業員に解雇予告をしたり、実際に解雇をしてしまったりする会社も多いです。
上述したとおり、充分な事実確認・本人による事実を認める発言がない時点で解雇予告をしたり解雇をしたりしても、会社がのちに訴訟等を起こされて敗訴するリスクを作出するだけです。必ず、客観的証拠を固めた上で懲戒処分・解雇予告等の社内手続をとりましょう。
過剰な調査・監視
逆に、これ以上の業務上横領を防ぐとともに、客観的証拠を集めようと意気込み過ぎてしまい、過剰な調査・監視をしてしまう会社経営者の方もいます。調査・監視をすること自体は何ら悪いことではないのですが、あまりに過剰に調査・監視をしてしまうと、犯人に警戒され、かえって証拠を掴むタイミングを逃してしまいますので、注意が必要です。
証拠をどのように掴むべきか・証拠をどのように集めるべきか、言い換えれば、どうしたら犯人のしっぽを掴むことができるか。この点については、ぜひ、法律専門家である弁護士にご相談をいただければと思います。
社内での噂の拡散や放置
ちなみに、会社内で業務上横領の事実が発覚する大きな要因として、会社内での噂が挙げられるようです。従業員の間で、「あの人って……。」と業務上横領を行ったと思われる方について噂になり始め、いずれその噂が責任者まで伝わって調査が始まる、というパターンです。
やはり業務上横領をすると、徐々に羽振りが良くなる、遊び方が派手になる、などの変化が現れるようです。火のないところに煙は立たぬ、で、案外そういった噂が当たることがあります。このような噂を放置すると、社内の秩序が維持できなくなります。
噂を放置するのではなく、経営層や管理者が情報を管理し、正式な内部調査を水面下で開始すべきです。
解決事例:横領被害の全額を認めさせ、相談者への返金を実現
ここまで解説してきた対応策や注意点を踏まえ、実際に当事務所の弁護士が介入して解決に至った事例をご紹介します。
ご相談の背景
美容院のオーナー様が、帳簿上の利益と実際の口座残高に1,000万円以上の乖離があることに気付き調査を行いました。調査の結果、経理担当の従業員による横領の可能性が濃厚となりましたが、具体的な手口や被害総額までは特定できず、決定的な証拠もない状態でした。
解決までの流れと弁護士の対応
ご依頼を受け、担当弁護士がまずおこなったのは、店舗の構造や従業員の行動パターンを詳細にヒアリングすることでした。その上で、法的に問題のない範囲で、かつ最も効果的な監視カメラの撮影方法を具体的にお伝えしました。これにより、横領の瞬間を映像証拠として押さえることに成功しました。
弁護士が従業員との交渉を開始すると、当初は案の定、本人は事実を頑なに否定しました。しかし、適切なタイミングで映像証拠を提示したところ、従業員は言い逃れできないと観念し、横領の事実を全面的に認めました。
本事例のポイント
本事例の成功の鍵は、感情的に本人を追及するのではなく、まず専門家が介入して法的に有効な証拠を確保した点にあります。
横領の手口や加害者の性格は様々です。それぞれのケースに応じた適切な対応を、正しい順序でおこなっていくことが、被害回復に向けた最も確実な道筋となります。
よくあるご質問
業務上横領の証拠がない状況で、疑わしい従業員を解雇することはできますか?
証拠がない状態での解雇は「不当解雇」として訴えられるリスクが非常に高いため、絶対におこなうべきではありません。裁判で敗訴すれば、解雇の無効や、解雇期間中の賃金支払いを命じられる可能性があります。解雇を検討するのは、監視カメラの映像や不正な送金履歴といった、第三者が見ても納得できる客観的な証拠を確保した後にしてください。焦りは禁物です。
従業員による横領の疑いがある場合、まず何から対応すればよいですか?
まず着手すべきは、本人や他の従業員に気づかれないように「客観的な証拠」を集めることです。具体的には、在庫データと現物の突き合わせ、過去の経費精算や取引記録の監査、銀行の入出金履歴の確認などが挙げられます。本人への事情聴取は、言い逃れができないだけの証拠が揃ってからおこなうのが鉄則です。初動対応を誤ると、証拠隠滅の機会を与えてしまいます。
業務上横領の証拠集めを弁護士に依頼すると、どのようなメリットがありますか?
弁護士に依頼する最大のメリットは、法的に有効な証拠を、合法的な手段で集めるための具体的なアドバイスを受けられる点です。また、感情的になりがちな本人との交渉や、民事・刑事の手続きをすべて任せることができます。自社だけで対応するよりも、証拠確保の成功率を高め、被害金額の回収という最終目標を達成できる可能性が格段に上がります。
横領の証拠として、どのようなものが法的に有効ですか?
法的に有効な証拠としては、①横領の瞬間を捉えた監視カメラ映像、②架空取引を示す偽の契約書や請求書、③会社から個人口座への不自然な送金履歴、④本人が横領を認めた自認書(念書)や録音データなどが挙げられます。一つの証拠で判断されることは少なく、複数の証拠を組み合わせることで、より強固な立証が可能となります。
業務上横領による損害賠償請求に時効はありますか?
はい、あります。民法上、会社が損害および加害者を知った時から3年、または不正行為の時から20年が経過すると、損害賠償を請求する権利が時効によって消滅します。長期間にわたる横領の場合、古い被害については請求権を失う可能性があります。時効の成立を阻止する手続きもありますので、横領の事実に気づいた際は、お早めに弁護士へご相談ください。
まとめ
本記事では、業務上横領が疑われる際の証拠の集め方と、証拠がない場合の対応について解説しました。
ご紹介した解決事例のように、決定的な証拠がなく、対応に窮している状況であっても、専門家である弁護士が介入することで、事態を打開し、被害回復への道筋を立てることが可能です。
「証拠の集め方がわからない」「集めた証拠が十分か不安だ」といったお悩みがございましたら、決して一人で抱え込まず、まずは一度、当事務所にご相談ください。