2024年12月6日
2024年12月6日
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業務上横領で従業員を刑事告訴することができる?
業務上横領で従業員を刑事告訴することはできるのだろうか……?
従業員が会社内部で横領事件を犯したことが判明した場合、会社経営者として最初に考えるのは、当該従業員に対してどのような処罰を科すことができるのか、ではないでしょうか。従業員が会社内部で問題を起こした時の対応は、会社経営者の頭を悩ませる重大な問題です。
この記事では従業員が業務上横領を犯した場合に刑事告訴ができるのかという点について、刑事告訴のデメリットと横領発生時の対処のポイントとともに解説いたします。
業務上横領を刑事告訴するデメリット
業務上横領を犯した従業員を刑事告訴するデメリットとしては以下のようなものがあります。以下の3点が、代表的なデメリットといえるでしょう。
被害弁償が必ず行われるわけではない
まず、被害弁償が必ず行われるわけではありません。従業員を刑事告訴したとしても、従業員本人から金銭的な弁償が得られるとは限らないのです。
従業員を刑事告訴した場合、警察・検察といった捜査機関による捜査が進むこととなります。しかしながら、これらの捜査が進んだとしても、刑事手続では「当該従業員に対して刑事罰を科すべきか、科すとしたらどの程度の刑事罰が妥当か。」といった点についての検討がなされるに過ぎませんから、金銭賠償が進むとは限らないのです。
また、捜査が進むことで、従業員が行方をくらますなどして逃げてしまうこともあり得ます。刑事罰をおそれて、急に横領の事実を否定し始めるかもしれません。
あくまでも、横領された金銭・物品についての弁償を優先するのであれば、刑事告訴ではなく、民事上の金銭支払交渉を優先した方が良いかもしれません。この点に関しては、証拠の有無・内容を踏まえながら、ぜひ弁護士とご相談をしてください。
会社の社会的評価が下がる可能性がある
次に、会社の社会的評価が下がる可能性があります。
巨額の横領事件であれば、刑事告訴によって従業員が逮捕されたり起訴されたりする可能性があります。このような場合、報道まで含めた情報拡散のリスクを考慮しなければならないでしょう。従業員が逮捕等された場合、報道まではなされなかったとしても、社内での噂が流れることも想定されます。人の口には戸を建てられませんから、昨今のSNS普及の影響も受け、社内を超えて同業者や顧客などの外部者まで情報が拡散される可能性は避けられません。
このような事態によって会社の社会的評価が下がってしまうことがありますので、従業員を刑事告訴することのデメリットとして留意しておく必要があります。
告訴の受理や捜査機関への協力に労力・時間をとられる
更に、捜査機関に告訴を受理してもらうためには、証拠を集めて事実関係を整理する必要があります。また、告訴を捜査機関に受理してもらった後も、警察や検察庁の捜査に協力するための時間や労力をとられることもデメリットとして挙げられます。
告訴は、捜査機関に捜査を求めるものである以上、会社としては、しっかりと捜査に協力する必要があります。具体的には、横領に関する帳簿・事実経緯、横領をした従業員の担当業務・社内での立場や権限、会社内での横領された財産の保管方法・保管場所などの刑事事件において重要な事実について、捜査機関の聴取に応じたり証拠提出することになりますが、これらのために多大な時間や労力を要することになるのです。会社経営者のみならず、経理担当者などの従業員も、捜査機関の聴取や証拠集めに協力することになります。
このように、刑事告訴には、社内全体への時間的コスト・負荷の増加が見込まれることとなりますから、注意が必要です。場合によっては、事前に各種業務の調整をして経理担当者などの時間を確保しておく必要もあるでしょう。
横領罪で従業員を刑事告訴するメリットとは?
それでは逆に横領罪で従業員の刑事告訴するメリットとしてはどのようなものがあるのでしょう。以下、重要な2点について解説します。
再発防止効果
まずは、再発防止効果が挙げられます。
会社内部において横領があったと発覚した場合、会社経営者として、厳正な対応を取ったという事実は、会社内部に共有されるでしょう。これによって他の従業員による横領を防ぐ効果が期待できます。他の従業員としても、もしこの会社で業務上横領行ったらどうなるか、という点が明確になるのです。
このように厳正な対応をとることによって業務上横領再発を防止する効果が期待できることは、横領を行った従業員を刑事告訴することの重要なメリットといえるでしょう。
被害弁償の可能性が向上する
次に被害弁償の可能性が向上することも挙げられます。
横領を行った従業員を刑事告訴した場合、従業員が刑事罰を受ける可能性が生じます。このときその従業員が、会社に対して被害弁償を行ったかどうかという点は、従業員に対して科される刑事罰の重さを左右します。例えば、会社に対して被害弁償として、横領した金銭全てを返金した場合、刑事罰が相当程度軽くなることが期待されます。このため横領事件に関して刑事手続きがスタートした場合、従業員としても被害弁償をする動機が生じるのです。
会社側としては、法律専門家である弁護士とこの点について相談しながら、相手方のウィークポイントを押さえて、被害弁償交渉を有利に進めることができるでしょう。この点も重要なメリットとなります。
従業員の業務上横領に対する対処方法の検討すべきポイント
それでは従業員が業務上横領を行った場合に、対処方法としてどのようなポイントを検討するべきなのでしょうか。この点についてもご説明いたします。
内部調査と法的手続
まずは内部調査を入念に行うことが重要なポイントとなります。従業員の業務上横領が疑われる場合、客観的な証拠を収集することに注力しましょう。客観的な証拠があるかどうか、あるとしてそれがどのような内容のものなのか。この点が、刑事告訴の成功確率はもちろんのこと、損害賠償請求・不当利得返還請求などの民事上の請求や、懲戒解雇処分などの会社内部での処分の成功確率を大きく左右します。
客観的証拠を収集した後に、関係者や本人からの事情聴取に移りましょう。特に本人から事情聴取を行う場合には、言い逃れや証拠隠滅・口裏合わせができないように、事前に客観的証拠を集めておきましょう。
その上で、証拠関係と事実関係を明確にし、法的手続としてどのような手続を選択するか検討することとなります。従業員の業務上横領を行った場合、上述したように、①民事上の金銭返還請求、②懲戒解雇処分などの会社内の処分、③刑事告訴などの刑事手続の3種の法的手続きがありえます。存在する証拠内容からどの手続を選択するべきか弁護士とよくご相談の上、決定されるとよいでしょう。
企業として何を優先するべきか考える
上記の点について検討する上では、横領被害にあった被害感情を優先することなく、企業体として何が最善かを念頭に置いた検討が必要であることを忘れてはいけません。
やはり会社経営者としては、大切にしてきた従業員から裏切られてしまったことについて強い憤りや悲しみを覚えることでしょう。しかしながらこのような感情的な部分を重視してしまうと、かえって、会社・企業にとって最善とはいえない選択肢を選んでしまったり、経済合理性のない行動をとってしまったりするおそれがあります。このようなことのないように、会社経営者として、会社ファーストの選択をとり、会社のために何を優先するべきか考えながら、行動を決定して行きましょう。
ここでいう経済合理性の有無については、民事手続・刑事手続・懲戒処分が奏功する可能性を、弁護士と相談しながら検討しておくことが必要となるでしょう。弁護士の中でも、刑事告訴になれた弁護士は少ないですから、このような弁護士に早期に相談することが重要といえます。
業務上横領が発生した際に弁護士に相談すべきポイント
さて、以上のとおり、業務上横領について刑事告訴するデメリットと、業務上横領が起きた時の対処方法についてご説明しました。それでは業務上横領が発生した場合弁護士に相談すべきポイントは何でしょうか。
相談のタイミングと準備すべき情報
まずは相談のタイミングです。できるだけ早期に相談することが重要でしょう。特に、問題を起こした従業員に事情聴取する前に弁護士に相談することが必須です。
客観的証拠としてどのようなものが考えられるか、そしてどのような内容の客観的証拠があればよいのかといった点について弁護士から事前にアドバイスを受けて証拠収集に努めましょう。上述したとおり、あくまでも、客観的証拠を押さえてから事情聴取などをするべきです。この際に、どのような証拠があれば言い逃れがなされないかを事前に知るために、弁護士に相談するのです。
また相談時に準備すべき情報についても知っておきましょう。弁護士に業務上横領について相談する場合には、業務上横領があったと疑われた事情・業務上横領の被害内容・業務上横領犯したと疑われる従業員の氏名等の情報をご準備いただければ充分です。もちろん、この際に既に収集済みの証拠がある場合には、弁護士にご提示ください。
とにかく早期のご相談が重要となりますので、お悩みの場合には、躊躇無く弁護士にご相談ください。
刑事告訴と民事対応の違い
また、刑事告訴と民事対応の違いについても理解した上で弁護士に相談することが重要といえるでしょう。
刑事告訴をした場合には、上述したとおり、刑事罰を科すべきか、科すとしたらどのような刑事罰が妥当かを検討するための刑事手続が進むこととなりますから、それだけでは民事上の金銭返還請求手続は進みません。また、警察・検察等の捜査機関が金銭返還請求を援助してくれることもありません。
これに対して、会社として被害金の返還を優先するのであれば、民事対応も必要となってきます。民事上の示談交渉・訴訟対応などは、弁護士による援助おながら進めていくことが必要となるでしょう。
弁護士に相談した場合、刑事告訴の成功確率を上げることはもちろんできますが、民事上の金銭返還請求について助言を受けることもできます。これらの手続が異なるものであることを知った上で、どの手続についてどういった方向性での解決を重視するのかは明確にした上で弁護士に相談した方が良いでしょう。
まとめ
以上のとおり、従業員が業務上横領を犯した場合に刑事告訴するべきかどうかについて、そのデメリットも含めながらご説明しました。従業員の業務上横領を犯したと疑われた場合、とにかく早期に弁護士にご相談ください。特に、業務上横領に対する対応に習熟した弁護士のアドバイスを受けて証拠収集・事実確認を取ることが非常に重要です。
当事務所では、刑事告訴も含めた横領対策になれた弁護士が在籍しております。ぜひ各種法的手続を踏まえながらご相談に対応できる当事務所にご相談・ご依頼ください。当事務所では、あなたの会社を守るために、最善を尽くしたご助言・ご対応をいたします。