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2024年11月5日

 小売業の経営者の皆さまは、従業員による横領・窃盗などの不正行為に遭ったことはございませんか?また、従業員による不正行為の被害に遭うことが心配ではありませんか?

 実は小売業、特に多数の店舗を展開するような大手小売業者の店舗は、従業員による横領(業務上横領)や窃盗などが多発する現場でもあります。以下では、このような被害に遭った場合に取るべき初期対応と、そもそも従業員による不正を防ぐためにどのような手段を取りうるのかという点について、解説いたします。

小売業における横領・不正行為のケース

 さて、では、そもそも小売業においては、従業員によるどのような不正行為が起こり得るのでしょうか。以下、よくある事例をご紹介します。

① 単純な商品の窃盗・横領行為

 小売店舗における従業員の窃盗行為は、最も単純かつ簡単にできるため、未発覚のものも合わせれば相当数が発生しているといえます。

 従業員であれば、シフトや持ち場の関係から、周りの目が少なく発覚しにくいタイミング(深夜・早朝など)を計って犯行に及ぶことができてしまいます。特にバックヤードでの商品の移動経路が分かっていることが、犯行を容易化させます。このため、犯行が発覚しにくいのです。

 更にいえば、小売店舗では、盗む動機が湧きやすく、かつ、単価が安くて罪悪感の芽生えにくい安価な商品(お惣菜等の食品など)が商品として存在しますから、従業員も安易に不正行為に手を出しやすいといえます。

② レジ内の金銭などの現金の窃盗行為

 上記の商品窃盗・横領がエスカレートすると、レジ・金庫などの中に入っている現金の窃盗に至る従業員も出てくる可能性があります。不正行為になれてしまったことにより、更に直接的な利益に繋がる物を大胆に盗んでいくといえます。

 この場合には、やはり同様に、内部事情を踏まえて犯行が発覚しにくいタイミング・方法により不正が行われることとなってしまいます。例えば、レジの締め作業をする際に、架空の返金処理をして浮いた現金を懐に入れてしまうといった手段が考えられるでしょう。

 このような場合には、在庫品の数量改ざんなど、辻褄合わせの行為が必要になってくるので、犯行が発覚しやすくはなってきます。但し、どの従業員による犯行か、犯人を特定することには苦労することが多いです。

③ 商品の横流し・架空発注による横領行為

 また、取引先(や、その担当者)と協力して、商品の横流しや架空発注をしてしまう従業員もいます。このケースでは、外部者と結託した会社に多額の損害・損失をもたらしますので、被害結果は甚大なものとなります。

 他方で、上記事例同様に、犯行は発覚しにくいです。これは、社外の者に加え、場合によっては社内の別の従業員にまで、リベートとして見返りを渡していることが多いためです。これにより、周りの者まで共犯者に仕立て上げてしまうことで、内部からの犯行発覚を防ごうとするのです。

 会社としては、このような行為にいち早く気付くとともに、発覚時の早急な初動対応により、被害を最小限に抑えることが肝要といえます。

横領発覚後に取るべき初動対応

 それでは、上述したような横領等の不正行為が発覚した場合には、会社としてどのような初動対応を取るべきか、ご説明します。

① 証拠の収集

 とにかくまず、早期に証拠を収集することが重要です。従業員による横領等の不正行為に対しては、警察への通報による刑事手続、発生した損害賠償を求める民事手続、懲戒処分等を下す社内手続など、数多くの法的手続を取ることが想定されます。しかしながら、これらのいずれも、証拠の有無・内容によって、結論が大きく左右されます。

 これらの手続において適切な結果・処分を導くためには、まずは証拠の収集・保全をしましょう。例えば、防犯カメラ映像など、一定期間で記録が消えてしまう証拠もありますから、早期の対応をとることに留意してください。

 なお、他の従業員から事情聴取をする際には、その従業員から不正を働く従業員へと情報が流れる可能性があります。このため、他の従業員からの事情聴取は客観証拠収集後に行いましょう。

② 事件性の有無の確認

 また、証拠の収集と併行して、商品や現金の数量が足りない場合などには、そもそも本当に不正行為なのか、事件性の有無の確認もしましょう。単に現金の数え間違いであったにもかかわらず、従業員にあらぬ疑いを掛けてしまうことは、あってはならない事態です。

 会社として、他の従業員も含めた従業員との関係を良好に保つよう、証拠を確認する過程で、「本当に事件なのだろうか。」という視点も忘れずに持つようにしましょう。

③ 不正行為を行った疑いのある従業員からの事情聴取

 上記のとおり、証拠を固めた上で、初めて問題となっている従業員からの事情聴取を行うことができます。証拠がないままに事情聴取をしてしまうと、その場で言い逃れをされ、更に証拠を隠滅されてしまうおそれがあります。このため、客観的証拠を中心に収集した上で、それから話を聞くのです。

 ここでの会話は、非常に重要な証拠となりますから、必ず録音するようにしましょう。また、のちに従業員からパワーハラスメントや退職強要に当たる行為があったと言われることのないように、事情聴取時の話し方・言葉選びには細心の注意を払っておく必要があります。

小売業の横領を未然に防ぐためのポイント

 また、そもそもこのような不正行為を防ぐためのポイントも知っておきましょう。

① 商品・現金の存在を2名以上で確認する

 まずは、横領・窃盗行為の対象となり得る商品・現金の確認体制を見直すことが考えられます。商品の棚卸しや現金の移動時には、手間にはなりますが、複数名の確認をするような体制とすることで、横領行為等の不正が起きる可能性を低くすることが期待できます。

② 棚卸資料・経理資料の内容を2名以上で確認する

 実際に商品・現金等の現物を複数名で確認することは、人的コストの観点から困難であることも多いかもしれません。そのような場合には、棚卸資料・経理資料などの報告資料を複数名で確認することが次善策として挙げられます。

 この場合には、例えば店長など、会社の利益を正しく追求できる方(言い換えれば、不正を働く者と協同して不正行為を働く可能性の少ない方)に確認をお願いするべきでしょう。

③ 店舗売上げ・在庫数などの数値のモニタリング

 また、若干技術的にはなりますが、店舗ごと・レジ毎の売上げ・返金額推移や、在庫数の変動数など、数値の変動を定期的にモニタリングしていくこと(そしてそれを従業員に日々説明すること)でも、不正行為を防ぐことができます。

 これらの数値変動からは、例えば、異常にレジでの返金額が多い従業員がいることや、異常に同じ製品の発注をするのに売上が伸びていない店舗があることなどが明らかになりますから、不正行為が発覚しやすくなります。これらの数値変動を、社内で定期的にモニタリングしていると従業員に示すことで、発覚をおそれて不正行為に及ぶことを抑止する効果が期待できるといえます。

弁護士に相談するタイミング

 以上のとおり、小売業の横領・不正行為について、具体例を見ながら初動対応と予防策についてご説明しました。予防策は自社内部においても検討できるでしょうが、実際に横領行為等の不正行為が発覚した場合には、その後の手続がいずれも法的な手続であることもありますので、早期に法的専門家である弁護士に相談することをお勧めいたします。

 その際には、このような横領行為等への対応を熟知した弁護士を抱える当事務所へのご相談を、ぜひご検討いただければと思います。

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【著者情報】


2001年 京都大学法学部 卒業

2014年 ボストン大学ロースクール修了(LL.M. in Banking & Financial Law)

北陸電力株式会社、検察官を経て、2007年に弁護士となる

以後約16年間シティユーワ法律事務所に所属し、2023年より弁護士法人グレイスにて勤務

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