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2025年7月4日

横領には大きく2つの時効が問題となる

 皆さんは横領と時効の問題について考えたことはありますか。

 当然横領にも時効が存在しますが、そこには2つの種類があります。1つは、横領犯を刑事訴追(つまり起訴)することができなくなる公訴時効、もう一つは横領犯への賠償請求などの民法上の請求権を失う民事消滅時効です。

公訴時効

 「公訴時効」とは、犯罪後一定期間が経過することにより、刑事訴追(起訴)ができなくなる制度のことです。公訴時効の制度趣旨は、時の経過に伴う証拠の散逸により公正な裁判を維持することが困難になることや、時の経過に伴う被害者及び社会の処罰感情の希薄化、時の経過によって形成された事実状態の尊重などが挙げられています。

民事消滅時効

 横領を巡るもうひとつの重要な時効が「民事消滅時効」です。民事消滅時効とは、損害賠償請求などの民事上の請求権が時の経過に伴って消滅する制度です。消滅時効の時効期間は、請求権の種類によって異なります。

 横領の場合、まず考えられる債権は、民法709条に基づく不法行為を理由とする損害賠償請求権や、民法703条・704条を理由とする不当利得返還請求権です。この場合、この二つの請求権は「請求権競合」と呼ばれる関係に立ち、被害者はどちらの請求権を行使しても構わないものの、両者の請求権によって両方の給付(支払い)を得ることはできないこととなります。

 このような観念的競合の概念が認められる実益の一つが、時効期間の違いです。後述するとおり、両者は時効期間が異なるのです。

 また、横領被害については、従業員であれば雇用契約上の債務不履行責任、取締役等の役員であれば役員の善管注意義務違反の責任を問うことも考えられます。

横領罪や背任罪の時効は何年?

 それでは、横領罪や背任罪の時効が何年なのか、具体的に解説します。

横領罪の時効

公訴時効

 横領罪の公訴時効は、単純横領罪と業務上横領罪の場合で異なります。単純横領罪は犯罪行為から5年、業務上横領罪は犯罪行為から7年で公訴時効が完成します。公訴時効が完成した場合、検察官は、もはや犯行の事実や犯罪者が誰であるかを特定したとしても刑事訴追して裁判所に刑罰の適用を要求することができなくなります。

民事消滅時効

 民法709条に基づく不法行為を理由とする損害賠償請求権は、横領による損害と横領犯を知った時から3年で消滅時効が完成します。

 他方で、民法703条・704条を理由とする不当利得返還請求権や雇用契約上の債務不履行責任・役員としての善管注意義務違反の責任は、横領の事実と横領犯を知った時から5年間又は横領行為の時点から10年間の短い方で消滅時効が完成します。

 2つの請求権は時効期間のほか、時効の起算が開始される時期に違いがあり、被害者は自らにとって有利な方を選択することができます。

背任罪の時効

公訴時効

 背任罪の公訴時効は、犯罪行為から5年で完成します。

 背任罪は、横領のように会社の現金・所有物を奪う以外の方法で会社に損害を与えるものですので、発覚が遅れがちです。また、背任行為が発覚した際には、既に長年にわたって犯罪行為が繰り返されていることも多々あります。

 このため、発覚後、速やかな対応が必要となります。

民事消滅時効

 民事消滅時効については、横領と同様に、不法行為については背任による損害と背任犯を知った時から3年で消滅時効が完成し、不当利得返還請求権や雇用契約上の債務不履行責任・役員としての善管注意義務違反の責任は、背任の事実と背任犯を知った時から5年間又は背任行為の時点から10年間の短い方で消滅時効が完成します。

特別背任罪の時効

公訴時効

 特別背任罪は、刑罰が「10年以下の拘禁刑若しくは1000万円以下の罰金」(会社法960条)と重いので、業務上横領罪と同様に、背任行為から7年間経つまで公訴時効が成立しません。

 但し、7年間と聞くと長く感じますが、役員による不当な行為は、単純な従業員による業務上横領や背任と比較して、更に発覚がしにくいです。このため、特別背任に当たりうる不当な行為が発覚した場合には、公訴時効が成立するような時期に同種・同様の行為がなかったか、直ちに確認をしましょう。

民事消滅時効

 民事消滅時効は、横領や背任と同様に、不法行為については背任による損害と背任犯を知った時から3年で消滅時効が完成し、不当利得返還請求権や雇用契約上の債務不履行責任・役員としての善管注意義務違反の責任は、背任の事実と背任犯を知った時から5年間又は背任行為の時点から10年間の短い方で消滅時効が完成します。

横領罪の時効 背任罪の時効 特別背任罪の時効
公訴時効 単純横領罪:犯罪行為から5年
業務上横領罪:犯罪行為から7年
犯罪行為から5年 犯罪行為から7年
民事消滅時効 民法709条:横領による損害と横領犯を知った時から3年
民法703条・704条:横領の事実と横領犯を知った時から5年間又は横領行為の時点から10年間の短い方
民法709条:背任による損害と背任犯を知った時から3年
民法703条・704条:背任の事実と背任犯を知った時から5年間又は背任行為の時点から10年間の短い方

時効までにすべきこと

 それぞれの時効期間が満了する前にすべきことをご説明します。

公訴時効

 公訴時効は、警察・検察などの捜査機関が捜査を終え、起訴するまでの時効期間です。このため、犯罪行為をした人物に対して刑事処分を下すことを求める場合には、公訴時効期間が到来するまでの間に時間的余裕をもって、刑事告訴・被害届の提出を行う必要があります。

 刑事告訴をする上では、事前に充分な客観的証拠を集めておく必要があります。公訴時効期間が近付いている場合には、時間との戦いになりますから、犯罪行為が発覚した際に速やかな対応が必要となります。無駄な時間を使ってしまわないように、早期の段階で弁護士に相談をして適切な対応を聞いておくことをお勧めします。

民事消滅時効

 民事消滅時効は、損害賠償請求・不当利得返還請求などの各種請求をするまでの時効期間です。民事消滅時効が近い場合には、内容証明郵便等の記録が残る形で請求をしておけば、そこから6か月間は時効期間が完成することが猶予されます。また、民事訴訟を提起することで、時効期間が完成することを防ぐことができます。

 このため、刑事手続よりは、発覚後に時効期間経過までの猶予を確保できるといえます。しかしながら、この場合も、不当な行為があったこととその犯人が誰であるかという点について証拠を集めて確定していかなければなりません。ぜひ、早い段階で弁護士の助力を得ることをお勧めします。

退職後の請求について

 ちなみに、横領・背任行為をした役員や従業員が退職したのちであっても、刑事告訴や民事上の金銭請求をすることはできますから、安心してください。但し、この場合には、当該役員や従業員がどこで何をしているのか把握しておく必要があります。行方不明になってしまった相手に対して法的手続を行うことは難しいことが多いのです。

 例えば退職後に横領・背任行為が発覚した場合や、横領・背任行為が発覚しそうになったために退職した役員・従業員が相手である場合であっても、諦めることなく、厳正な対応を取りましょう。ここで、「退職した相手だからそこまでやらなくても……。」と躊躇してしまうと、現在就業している役員・従業員が同様の行為をすることを誘発してしまうでしょう。抑止力を働かせるためにも、適切な対応を選択するべきといえます。

 なお、退職後には従業員としての地位が失われるため懲戒処分を下すことはできませんから、ご注意ください。

横領発覚後、早期に弁護士に相談するメリット

 上記のとおり、横領・背任行為が発覚した場合には、早期に弁護士に相談するべきといえます。これは、以下のようなメリットがあるためです。

早期に適切な助言を得られる

 とにかく時効期間との関係では、早い段階でどのような行動を取るべきか、正しい選択を取ることが要求されます。無駄な行為に時間を割いてしまって時効期間が経過してしまっては身も蓋もありません。

 この点を踏まえると、弁護士に相談することで早期に適切な助言を得られることは重要なメリットといえるでしょう。

法的な見立てを知ることができる

 また、現時点で揃っている証拠や、これから揃う可能性がある証拠を踏まえ、刑事告訴や民事上の金銭請求をした場合の法的な見立てを聞くことができる点もメリットです。

 仮に、あまりにも証拠が少ない場合には、調査・証拠収集のコストを掛けずに、いわゆる損切りの選択を取らざるを得ないこともあるでしょう。また、逆に、法的手続を取るために必要な証拠がどこに存在している可能性が高いか聞くことができる場合もあります。

 こういった見立てを知って行動選択できる点もメリットといえます。

相手方との交渉・やり取りを任せることができる

 横領・背任行為といった、いわば裏切り行為をはたらいた相手方とのやり取りは、非常にストレスフルなものとなります。経営者によっては、本業に支障を来たす方も多くいらっしゃいます。

 このようなストレスフルな交渉・やり取りを全て弁護士に任せてしまえるのも、弁護士に対応を依頼することのメリットといえます。

業務上横領が時効となったケース

 業務上横領や背任行為は、上記のとおり、発覚が遅れがちです。このため、早急に対応を取らないと、時効期間が経過してしまいます。また、他の原因も相まって時効期間が経過してしまうケースもありますので、注意が必要です。

 例えば以下のケースでは、業務上横領が発覚したにもかかわらず、これが業務上横領罪ではなく横領罪と認定されてしまったために、公訴時効が成立したものと扱われています。

業務上横領罪、時効で免訴 過去の判決例と異なる判断

 この裁判例では、取締役退任後に行った横領行為について、業務上横領罪が成立するものの、量刑は横領罪の範囲に留まると指摘した上で、公訴時効についても単純横領罪と同様に解釈するべきとの判断をしました。

 このような裁判例は過去になかったのですが、裁判官次第では、このような新たな判断がなされてしまい、思いもよらず早い段階で時効期間が経過したものと扱われてしまう場合もありますから、注意が必要です。

まとめ

 以上のとおり、横領罪の時効と、時効までにやるべきことについて解説しました。横領・背任行為が発覚した際には、裏切られたという想いと共に、混乱を来たしてしまう経営者の方が多いです。このような際に、速やかに適切な対応を取るためには、法律専門家である弁護士の協力を得ることが必須といえるでしょう。

 当事務所では、企業法務を多く扱う傍ら、刑事告訴・横領被害への対応にも特化した業務を行っています。このような問題でお困りの場合には、ぜひ、一度当事務所までご連絡ください。

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【著者情報】


2001年 京都大学法学部 卒業

2014年 ボストン大学ロースクール修了(LL.M. in Banking & Financial Law)

北陸電力株式会社、検察官を経て、2007年に弁護士となる

以後約16年間シティユーワ法律事務所に所属し、2023年より弁護士法人グレイスにて勤務

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