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2023年12月26日

1. 横領とは(民事と刑事)

 横領とは、他人からの委託に基づき管理する他人の金銭、物、不動産などに関し、他人の信頼を裏切って所有者でなければできない処分をすることです。
 その方法としては、他人から管理を任されていた金銭を勝手に引き出し使い込むこと、他人から預かっていた物品を第三者に贈与してしまうこと、第三者に勝手に使わせてしまうこと、勝手に売却すること、加えて、管理を任されていた土地建物に勝手に抵当権を設定することなど、さまざまなものが含まれます。

 このような横領行為にあってしまった際には、民事と刑事の両方から、横領犯に対して責任を追及することが考えられます。

2. 民事としての横領

 民事上の横領は、民法709条で定められる「不法行為」に当たります。条文上「…これによって生じた損害を賠償する責任を負う」と定められています。そのため、民事上の責任追及としては、この条文に基づき横領犯に対し損害賠償を請求していくこととなります。
 民事においては、横領された金銭を取り返すことが手続の主眼とされています。横領の被害を回復するため、横領された金銭を取り返す手段としては、横領犯との交渉から、横領犯に対して訴訟提起し裁判を起こすことまで多岐にわたっています。
 ただ訴訟提起し裁判を起こすとなると、通常1年以上の時間がかかります。そのため、横領犯から金銭取り返すために裁判を起こすことが最上の方法ではありませんし、必ず裁判を行わなければ被害を回復させることができないというものでもありません。

3. 刑事としての横領(委託物横領罪)

 刑事上の横領は横領罪として刑法上定められています。
 横領罪には、委託物横領罪(刑法252条)、業務上横領罪(刑法253条)、占有離脱物横領罪(刑法254条)があり、一般的に「横領」と呼ばれているものは、委託物横領罪と業務上横領罪の二つです。

 まずは、委託物横領罪について説明します。
 委託物横領罪の法定刑は、「5年以下の懲役」と定められています。
 法律上、委託物横領罪が成立するには、①「自己の占有する」②「他人の物」を③「横領」しているかどうかが主に問題となります。

① 「自己の占有する」とは

 横領罪における占有とは、物に対する支配があることを示します。この支配は事実上の支配と法律上の支配の両方を含むことが横領罪の特徴です。
 事実上の支配とは、例えば、会社等の他人から預かった現金を所持している場合や、会社等の他人の倉庫にある物品の管理を任されているような場合が、これに当たります。
 一方で法律上の支配の典型例としては、会社等の他人名義の口座の管理を社員が行っている状態があげられます。
 また、この「占有」は、会社等の他人からの委託信任関係、つまり会社等の他人から金銭等の管理を任されたことにより占有している必要があります。

② 「他人の物」とは

 金銭等が、行為者(横領犯)以外により所有されていることを言います。
 「他人」には法人個人両者を含むので、横領されてしまった金銭等が、法人の所有の場合も、行為者以外の個人の所有の場合にも「他人の物」であるためこの要件に該当します。

③ 「横領」とは

 刑法の条文上の「横領」は、横領行為そのものを指し、これは権限がないにもかかわらず、金銭等に対して、所有者でなければできないような処分を行うことを言います。
 会社から管理を任されていた金銭は、本来であれば会社から許された金額を許された目的のために使用することのみが認められていますが、そういった会社からの許可なく(権限がなく)、勝手に自身のために使用してしまうことが、典型例としてあげられます。

4. 刑事としての横領(業務上横領罪

 業務上横領罪は、委託物横領罪の成立する要件のうち、①「自己の占有する」の部分が、「業務上自己の占有する」とされている点のみが異なります。
 したがって、他人の物を業務として占有している者が横領を行った場合には、こちらの業務上横領罪が適用されます。
 業務上横領罪の法定刑は、「10年以下の懲役」と定められています。

5. 民事と刑事の横領対応

 民事は、横領犯に対し損害賠償を請求し、依頼者に対し金銭を支払う形で、依頼者の被害を回復させることに主眼が置かれます。
 横領犯である従業員等と直接交渉を行うことによって早期に返済させる方法や、裁判所に訴えを起こし裁判所を通じて返済を迫る方法等、多くの方法の中から状況に応じて適切な方法を選択していく必要があります。
 一方で刑事は、横領した従業員を罰することに主眼が置かれます。
 裁判を起こすか否かを被害者が決めることのできる民事の場合と異なり、最終的に起訴するかどうか(裁判手続を経て処罰するかどうか)は検察官が決めます。そのため横領犯に対する厳罰を望む場合には、横領事件の被害者としては、検察官が起訴をするという判断をしてくれるよう、処罰を求める趣旨の告訴をする前段階として、法律的に犯罪と認められる上で重要となる証拠をきちんと揃える必要があります。

6. 横領への一体的な対応

 民事と刑事は、それぞれ目的が異なる手続です。そのため、横領被害に遭ってしまった場合の対応の仕方として、民事の方が良い、刑事の方が良い、と一概に決められるものではありません。

 また、横領被害に遭ってしまったときに横領犯に対しどういったアプローチをしていくべきであるかは、横領犯が横領をしたことを認めているか否かによっても変わってきます。
 横領犯が認めていない場合にこれを認めさせていく方法、裁判を提起するタイミング等、考えるべきことは多岐にわたります。

 また始めは自身の行いを全て認めていた場合であっても、後になって態度を変え、否認するケースも多くあります。これは民事の場合も刑事の場合でも、同様の問題が生じています。
 そのため、後で供述をひっくり返されても問題がないようにしておくため、初動で最も大切なことの一つは、証拠の収集です。

 ただ、横領の要件に該当するか否かの判断は他の犯罪と比べても難しいものです。実際のご相談の中のケースとしては、当初横領被害に遭ってしまったという内容でご相談にいらした方でも、お話を詳しくうかがってみると、窃盗や背任、詐欺といった横領ではない別の犯罪に該当するということも頻繁にあります。
 これらの犯罪は、犯罪成立のための要件がそれぞれ異なるため、自ずと集めるべき証拠が変わってくることとなります。
 そういった問題も、早い段階から弁護士が入ることで、適切に事案を見極め、正しく証拠を収集していくことができます。

 この点弊所は横領事件を数多く扱っておりますので、さまざまな状況に応じた適切な対応をご提案することができます。
 また、民事刑事問わず、被害者の方のご希望に合わせた対応を行なっております。
 対象となる行為がどの犯罪に該当するものであるか見極めるのみならず、その認定のために必要となる具体的な証拠の内容についてもアドバイスさせていただいております。
 加えて、証拠収集方法もアドバイスさせていただき、被害者の方のご希望があった際には、証拠収集自体を弁護士と協力して行うことも可能です。

 横領被害に遭ってしまったが今後の進め方がわからない場合や、そもそも横領であるのか判断が難しいという場合には、横領とその対応について多くのノウハウを蓄積した弊所まで、是非ご相談ください。

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【著者情報】


2001年 京都大学法学部 卒業

2014年 ボストン大学ロースクール修了(LL.M. in Banking & Financial Law)

北陸電力株式会社、検察官を経て、2007年に弁護士となる

以後約16年間シティユーワ法律事務所に所属し、2023年より弁護士法人グレイスにて勤務

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