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1. 従業員を懲戒解雇したい
「あの従業員、会社のお金を横領しているのではないか・・・。」
不穏な思いを抱きながら調査を進めた結果、その従業員による横領の事実が揺るぎないものであると分かった場合、多くの経営者の方は愕然とするとともに、すぐにでもその従業員を懲戒解雇したいと考えることでしょう。
もっとも、横領した従業員を懲戒解雇する場合には、注意すべき点がいくつかあります。今回は、それらについて順を追って考えてみましょう。
2. 返り討ちに遭わないための下準備を
経営者の方からすれば、「これだけ調べたのだから、あの従業員が横領したことは間違いない!」と思われることが大半だろうと思われます。
ところが実際には、複数の裁判例で、横領した事実に関する証拠が不十分であるとして、横領を理由とした懲戒解雇が無効とされています。
懲戒解雇が無効とされた場合に会社が受けるダメージのうち、もっとも大きなものは、その従業員に対する未払い賃金の支払い義務が生じることでしょう。また、当然ながら、その従業員に対し、横領した金額を返せという損害賠償請求も認められません。つまり、失われたお金を取り戻すことができないだけではなく、更に多額のお金を支払うことにもなりかねないのです。
横領したと思われる従業員を懲戒解雇したことにより、このような返り討ちに遭わないためには、下準備を入念にしておく必要があります。
具体的には、既にこのコラムでも何度か触れているように、「客観的な証拠を集めること」と、「横領が疑われる従業員本人から十分に事情を聴取すること」がとても重要です。
この下準備を適切に行うためには、できればこの段階から、専門家の助言を得ることがよいでしょう。
3. 適切な懲戒解雇手続きを
横領の事実に関する十分な証拠がそろったとしても、懲戒解雇の手続き自体に問題がある場合、その解雇は無効となり、やはり2と同様の問題が生じ得ます。
そこで、懲戒解雇の手続きで注意すべき点を見ていきたいと思います。
⑴ 就業規則の定め
横領を理由とした懲戒解雇をする場合には、あらかじめそのことが就業規則に定められている必要があります。具体的には、どのような場合に懲戒処分ができるのかと、懲戒の種類の記載が必要です。まずは、就業規則にこれらの記載があるかを確認しましょう。なお、「横領したこと」という定めまでは必要ではなく、「会社に損害を与えたこと」という定めで足りる場合もありますが、よく分からない場合には、専門家の意見を聞いてみるのがよいでしょう。
⑵ 懲戒処分の相当性
就業規則上、横領したことが懲戒解雇の理由になることが規定されていたとしても、それだけでは、懲戒解雇が必ずしも有効とはなりません。懲戒解雇は、従業員から職を奪うこととなる最も重い処分です。したがって、そのような重い処分に見合った悪質な横領行為であるといえる場合にのみ、懲戒解雇が有効となります。この点は、懲戒解雇の有効性が問題となった他の事例と比較をするなどして、慎重に判断をする必要があります。ここはまさに、事前に弁護士から見解を聞いておくべき場面です。
⑶ 弁明の機会の付与などの手続き
懲戒処分をする場合の手続きについて、就業規則に定めがある場合には、その手続きを実行する必要があります。
また、そのような手続きの定めがない場合でも、その従業員の言い分を聞く機会、すなわち、弁明の機会を付与するのがよいでしょう。
従業員の言い分を聞いた上で、それでも懲戒処分が妥当かについて、経営者ご自身が再度判断する機会となり得ますし、後日、裁判で懲戒解雇処分の有効性が争われたときに、有効であるという経営者側の主張を支える事情にもなり得るからです。
⑷ 解雇通知書の交付
懲戒解雇の理由や雇用関係が終了したこと、解雇の日付等を明確にするために、解雇通知書を作成し、本人に交付することが重要です。
4. 迷ったら弁護士に相談を
横領従業員を解雇する場合、慎重に行わないと足元をすくわれてしまう場合があります。少しでも迷ったら、弁護士に相談することが、ひいては会社を守ることにつながります。些細なことでも構いませんので、ぜひ弁護士に相談してみてください。