2025年10月29日
2025年10月29日
横領は組織の信用を根底から揺るがす重大な不正行為です。労働組合における横領も例外ではなく、犯人個人が組合員の信頼を裏切るだけでなく、組合運営そのものを危うくします。横領が発覚した場合、迅速かつ適切な対応を取らなければ、被害の拡大やさらなるトラブルに発展する可能性があります。
残念ながら、近年も労働組合における横領被害は一定程度報道されており、労働組合内部・ユニオン内部での横領事件について内部告発される事例は後を絶ちません。このページでは、労働組合で横領が発覚した場合の対応と再発防止策について解説します。
1.労働組合での横領の具体例
それでは最初に、労働組合における横領の典型的な例を挙げます。
1-1.組合費の使い込み
まず、組合員の組合費を、特定の役員などが個人的な飲食費や趣味の費用などに充てるケースです。これが最も分かりやすく、かつ、典型的な横領事例となります。
1-2.組合名義のクレジットカードの私的利用
次に、組合活動に必要な備品やサービスの購入に使うべき組合名義のクレジットカードを、個人的な買い物や旅行代金の支払いに悪用するケースです。
よくある例としては、私用車のガソリン代を組合名義のクレジットカードで支払うような例です。このような行為は、背任罪に当たる可能性のある行為です。
1-3.不透明な「旅行」「懇親会」費用の支出
また、実際には行われていない、または実態と異なる高額な旅行や懇親会の費用を計上し、その差額を着服するケースもあります。経費の水増し請求といえる行為であり、横領ないし背任に当たり得る行為といえます。
これらの行為はいずれも、組合の活動資金を私的に流用する点で共通しており、組合を信頼して組合費を支払っている各組合員への、重大な背信行為ともいえます。
2.なぜ労働組合で横領が起きるのか?
それでは、なぜ労働組合で横領が起きるのでしょうか?労働組合で横領が起きやすい背景には、いくつかの要因があります。
2-1.内部監査やチェック体制の甘さ
まず、多くの労働組合では、大企業のような厳格な会計監査体制が整っていないことが挙げられます。企業のように一定の内部監査システムを構築することが要求されておらず、かつ、その必要性も高くはないため、チェック体制が甘くなってしまうのです。
特に小規模な組合では、会計担当者が一人で全ての業務を担っていることが多く、チェック機能が十分に働かないことがあります。
2-2.「仲間内だから大丈夫」という心理的ハードルの低さ
また、組合は、企業と異なり、各組合員同士の信頼関係を基盤としています。その信頼が、不正に対する警戒心を緩め、「まさか身内が」という心理を生み、不正の温床となることがあるのです。
特に組合は、個人の権利を守るために同じ方向を向いて活動することが多いので、結束力が高くなりがちです。本来は良いことなのですが、この点が悪用されると、横領の温床を生じさせるという、極めてよくない結果を招くこととなってしまいます。
3.労働組合で横領が発覚したときの対応
横領が疑われる事態が発覚した場合、被害の拡大を防ぎ、今後の対応を円滑に進めるため、迅速かつ慎重な行動が求められます。万が一、労働組合内部での横領が疑われた場合には、以下のステップで対応を進めることを推奨します。
3-1.弁護士へ相談
まず、横領への対応には、法的な知識が不可欠です。横領と疑われる事案が発覚したら、すぐに企業不祥事の対応に詳しい弁護士に相談してください。企業内での横領事件対応に慣れた弁護士であれば、労働組合内部での横領事件にも適切に対応できるはずです。もちろん、裁判になった場合の見通しも確認しておくことができます。
弁護士は、証拠の保全方法、本人への聞き取りの進め方、刑事告訴や民事訴訟の可能性などについて、法的観点から適切なアドバイスを提供することができます。その後の訴訟・裁判まで視野にいれて対応するのであれば、必ず法的観点からのチェック・助言が欠かせないでしょう。
3-2.証拠の確保
次に、弁護士の指示に従い、証拠を速やかに、かつ慎重に確保することが重要です。証拠となるものは、帳簿、領収書、銀行取引明細、クレジットカードの利用履歴、業務日報、内部メールなど多岐にわたります。防犯カメラ映像などがあれば、更に明確な証拠になるでしょう。特にこれらの客観的証拠は、横領の事実を証明し、被害額を特定するために不可欠です。
本人に不正を問い詰める前に、また、関係する従業員に事情聴取をする前に、まずは客観的な証拠を保全・確保することが最優先です。この客観的証拠の保全・確保が不充分なままに聴取手続を取ってしまうと、犯人や関係者による証拠隠滅や口裏合わせを誘発しかねませんから、必ず入念に準備してから本人等への聞き取りを実施しましょう。
3-3.本人への聞き取り
これらの対応をとって、客観的証拠を十分に確保した上で、本人に事実確認を行いましょう。この聞き取りは、感情的にならず、冷静に行う必要があります。聞き取り方法が不当であると後から言われてしまい、自白を強制されたのであるなどと反論されることのないよう、最新の注意を払う必要があります。
理想としては、弁護士の同席のもと、客観的な証拠を目の前で提示しながら、事実関係を淡々と確認していくのが良いでしょう。本人の自白や謝罪がある場合もありますから、事前に録音・録画の準備をしておいて、聴取状況を記録に残しておくことが重要です。
4.再発防止のためにできること
このような横領は、一度起きてしまうと組合員からの信頼回復が非常に困難になります。また、「こうすれば横領ができるのか。」という印象を組合員に与えてしまい、他の組合員による更なる横領も招きかねません。
二度と労働組合内部での横領を繰り返さないために、再発防止策を徹底することが不可欠です。
4-1.組合費の出納ルールとチェック体制の見直し
まず、組合費の取扱いに関する明確なルールを定めましょう。
例えば、小口現金は使わず、すべての支払いを銀行振込やクレジットカードに一本化し、取引履歴が残るようにするという簡便なルールを作るだけでも、使途不明金をなくし、組合費の透明性を確保できます。また、組合費の管理方法も、金庫管理を取りやめて全て預貯金に入れてしまって残高を明瞭にすることも有用です。
もちろん、組合費のチェック体制自体を見直すことも肝要です。
4-2.二重チェック・定期的な監査の導入
また、組合費の管理を会計担当者一人に任せるのではなく、複数の役員等が会計をチェックする「二重チェック体制」を導入することもご検討ください。年に一度の定期監査に加えて、抜き打ちで会計監査を実施することも有効です。これらの対策により、不正を働きにくい環境を作ることができます。
こういった単純な対応であっても、構造的に横領を起こしやすい・横領する動機付けをしやすい環境を変えることで、大きな抑止力を期待することができます。
4-3.外部専門家による「ガバナンス体制構築」のすすめ
更に、普段の労働組合の運営においても、専門的な知見を持つ弁護士などの外部専門家の力を借りておくことも重要です。弁護士は、組合の現状を客観的に分析し、健全なガバナンス(統治)体制を構築するための助言をすることができます。このような外部専門家によるガバナンス体制構築も、労働組合に期待されるべき事項になってきています。
例えば、弁護士であれば、内部規約の見直しや、不正防止のための具体的な仕組み作りをサポートしたり、労働組合内の組合員に対する不正防止研修等を行うこともできます。
また、平時から弁護士に関与してもらうことだけでも、顧問弁護士がいることによって横領等の不正行為への抑止力が発生するといえるでしょう。
5.まとめ
さて、以上のとおり、労働組合で横領が発覚した場合に取るべき対応と再発防止策についてご説明しました。横領は、労働組合の信頼と存続を脅かす深刻な問題です。発覚した場合、まずは弁護士に相談し、法的観点から適切な対応を取ることが極めて重要です。その後、二度と不正が起きないよう、会計ルールの見直しや二重チェック体制の導入、さらには外部専門家の力を借りてガバナンス体制を強化するなど、抜本的な再発防止策を講じる必要があります。これにより、組合員の信頼を回復し、組合の健全な運営を再構築することができるでしょう。
当事務所では、横領被害に遭われた企業・団体の初期対応に習熟した弁護士を抱えています。横領被害に遭ったかもしれないとお感じになった場合には、ぜひ、当事務所までご相談ください。