2025年1月7日
2025年1月7日
職場に会社の備品を許可なく「盗んだ」従業員がいる。銅線などの金銭的価値のある在庫品が誰かに「盗まれている」ようだ。
このような従業員の不正行為が行われる事態に遭遇してお悩みの経営者の方は一定数いらっしゃいます。このように、一概に会社の物品が「盗まれた」と言っても、その行為にどのような犯罪が成立するのか、実はいくつかの種類があるのです。この違いを知っておくことで、いかなる刑罰が科される可能性があるか知り、適切な対応・対策を講じることが企業には求められます。
この記事では、このような場合に成立することの多い「窃盗」と「横領」の違いについてご説明します
Contents
窃盗とは?
窃盗とは、「他人の財物を窃取した者」に成立する犯罪で、「十年以下の懲役又は五十万円以下の罰金」が科されます(刑法235条)。
窃盗が成立するためには?
法律上、窃盗が成立するために必要な要件は、以下のとおりに整理することができます。
他人の財物
他人が占有する財産的価値のある物品を指します。
ここでいう「占有」は、判例上構築されてきた概念で難解な部分がありますが、簡単にご説明しますと、他人が現実に持っているなど、事実上の支配関係がある場合を指します。例えば、公園のベンチに財布を置いてその前で少し遊んでいるなど、財布に関する支配関係が維持されている(時間的・場所的に、物品とその保有者との関係が近接している。)場合には、実際に持っていなくても占有が肯定されます。
窃取した者
上述した他人の財物を、本人の許可なく自身の占有下に移転することを指します。例えば、スーパーに陳列されている商品(スーパーの店長の管理下にあります。)を自分のズボンのポケットに入れた場合、その商品への事実上の支配関係は盗んだ者に移転しているといえますから、「窃取した」といえます。
不法領得の意思
以上に加え、窃盗罪が成立するためには、「財物の権利者を排除して、他人の物を自己の所有物として、その経済的用法に従い、利用処分する意思」(これを「不法領得の意思」といいます。)を要します。簡単にご説明すると、他人が占有する財物を、自己の所有物かのように利用したり売却したりする意思といえます。
不法領得の意思がない場合、例えば、財物を壊したり捨てたりする意思を有していた場合(この場合は器物損壊罪が成立する可能性があります。)には、窃盗罪が成立しません。
また、一時的に物品を使う意思しかない場合には、そもそも犯罪が成立しません。例えば会社の備品のペンを営業先に持ち出したとしても、営業後に会社に返す意思があれば、不法領得の意思がないと判断される可能性が高いです。
窃盗が成立する具体例
以上のような窃盗罪が成立する具体例をいくつかご紹介いたします。
- 他の従業員の机・ロッカーから、他の従業員の物品を盗む事例
- 経理担当者ではない社員が、会社内で保管されていた現金を盗む事例
- 会社内に置かれていた調度品を、第三者に売却するために盗む事例
このように、他の従業員や会社の支配領域内にある物品を、許可無く自己の物として利用処分する行為に、窃盗罪が成立する可能性があります。
窃盗罪には罰金刑も用意されていることから、横領と比較して若干軽微な刑罰が科される可能性がある犯罪であるということができるかもしれません。しかしながら、会社として上記のような事例・ケースに遭遇した場合には、厳正な対応をとることが求められるでしょう。
横領とは?
これに対して横領とは、「自己の占有する他人の物を横領した者」に成立する罪で、「五年以下の懲役」が科されます(刑法252条1項)。但し、実務上成立することが多いのは業務上横領罪でして、「業務上自己の占有する他人の物を横領した者」に対して「十年以下の懲役」が科されることとなります(刑法253条)。
横領が成立するためには?
ここでは、業務上横領が成立するために必要な要件についてご説明いたします。
自己の占有する他人の物
窃盗罪とは異なり、「自己の占有」、つまり自身の支配領域内にある他人の所有物が対象となる犯罪です。分かりやすく説明すると、他人の所有物を預かっていたり、管理する権限を有していたりする場合に、その所有物を盗る行為が横領なのです。
例えば、郵便局員が配達中の郵便物をそのまま盗んだ場合には、業務上横領罪が成立します。これは、配達中の郵便物が、事実上郵便局員の支配領域内にある(つまり占有している)他人所有の物品に当たるためです。
業務上自己の占有する
更に、業務上横領罪の場合は、他人の物を預かっている理由が、「業務」による場合を指します。
ここでいう「業務」は仕事の関係である必要はなく、判例上、「社会生活上の地位に基づき、反復継続する意思によって行われるもの」であることで足りるとされます。このため、例えばPTAや大学のサークルなどの団体の経理・現金管理担当者など、仕事の関係ではないものの、社会生活上の地位に基づいて一定程度反復継続して管理を担当していた者が現金を盗んだ場合にも、業務上横領罪が成立します。
横領した者
窃盗罪においては、他人の占有(事実上の支配)を奪って自身の占有下に置くことが処罰対象となっていました。しかしながら、横領においては既に他人の所有物を自己の占有下に置いていますから、「盗む」という行為の意味も変わります。
「横領」とは、判例上、「他人の物の占有者が委託の任務に背いてその物につき権限がないのに所持者でなければできないような処分をする意思」(横領罪における不法領得の意思と呼ばれます。)を発現する一切の行為と定義されます。法的に非常に難解ですので簡単にご説明しますと、他人の所有物を預かったり管理したりしているにもかかわらず、これに反してその所有物に対する所有権を侵害するような行為を指すといえます。
横領が成立する具体例
以上のような業務上横領罪が成立する具体例をいくつかご紹介いたします。
- 自身が営業車として利用している社用車を、会社の許可無く、休日などの業務外にて利用する事例
- 経理担当者が、自身の管理する会社所有の現金などを盗む事例
- 営業担当者が、架空の取引を行った記録を作成し、自己の管理下において商品・備品を売却してその代金を着服する事例
このように、自己に管理権限等の一定の権限がある場合に、それを悪用して金銭等を盗る行為に、業務上横領罪が成立する可能性があります。会社の従業員が起こす事件の多くの場合に、業務上横領罪が成立します。
窃盗と横領に関連するその他の犯罪との違い
ご説明をした窃盗と横領に関連する他の犯罪として、「背任罪」もあります。
背任罪は、「他人のためにその事務を処理する者が、自己若しくは第三者の利益を図り又は本人に損害を加える目的で、その任務に背く行為をし、本人に財産上の損害を加えたとき」に成立し、「五年以下の懲役又は五十万円以下の罰金」が科されます(刑法247条)。ちなみに、取締役等の一定の役職者が同様の行為を行った場合には、特別背任罪(会社法960条)が成立し、「十年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する」こととされます。
背任罪は、会社に財産的損害を与えた場合に成立する犯罪となります。業務上横領罪と似ていますが、会社所有の物品・現金等を実際に盗んだ場合には業務上横領罪が成立し、物品を盗まない形で会社に損害を与えた場合には背任罪が成立することとなります。
例えば、銀行の融資担当者が融資先の利益のために充分な与信審査をせずに融資を実行し、実際に貸倒れが発生して会社に損害が発生した場合などに、背任罪が成立する可能性があります。
窃盗や横領のトラブルを防ぐ方法
以上のとおり、窃盗と横領罪の違いについてご説明しました。窃盗や横領という言葉にはなじみがあるかもしれませんが、法律的にどの犯罪に該当するかについては、専門的知識が必要です。また、これらのトラブルを未然に防ぐためには、弁護士と顧問契約を締結してトラブル予防のための各種対策を講じることが有用です。例えば、経理担当者を2人以上置く、棚卸し・在庫管理を2人以上で行うようにするなどの管理体制の見直しから、誓約書・労働契約書の見直し、社内研修の実施など、多くの予防策があります。
ぜひ、窃盗や横領などの従業員の不正行為にお悩みの場合には、当事務所へ一度ご相談ください。