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2024年12月24日

横領被害を受けた場合に取るべき3つのステップ

 横領被害に遭った会社は、どのような対応を取るべきなのでしょうか?以下では、横領被害に遭ったときに知っておきたいポイントについて、3つのステップに従ってご紹介します。

被害の確認と証拠収集

 まず、横領被害に気付いた場合には、早急に、被害の確認と証拠収集をしましょう。

 横領被害に遭った場合には、①捜査と刑事罰を求める刑事手続、②被害金・被害物品の返還を求める民事手続、③社内での処分を下す懲戒手続をとることがあり得ますが、いずれの手続による場合であっても、証拠の有無・内容が非常に重要です。このため、まずは横領の証拠を集めることが肝要となるのです。

 証拠を集める際には、まず客観的な証拠を集めることに集中しましょう。関係する人物・犯人と思われる人物からの事情聴取をする前に客観的な証拠を固めてしまうことで、口裏合わせや証拠隠し・言い逃れができないようにしておく必要があるのです。

 また、横領被害が発覚した時、多くの事例では、発覚前に多数の横領行為がなされているはずです。発覚したもの以外にも被害が出ていないか確認し、その全てについて客観的な証拠を収集しておきましょう。特に、書き換えが可能なデータなどの証拠は、犯人に書き換えられるなどの証拠隠滅行為をされる前にバックアップを保存しておくなどしなければなりません。

 どのような証拠があり得るのか、どのような証拠があれば充分なのか、また、どのような証拠をどのように示しながら事情聴取をするのかは、ケースバイケースですから、弁護士にご確認いただくことをお勧めいたします。

被害届の提出方法と必要書類

 このように客観的な証拠を集めて関係者からの事情聴取をした後で、被害届の提出をすることになります。被害届は、警察署に対して横領の証拠を持参して届け出ることとなります。

 横領行為の被害者は、横領された被害品の所有者となりますから、会社代表者又はその代理人が警察署に赴くことが必要といえるでしょう。この際には、集めた客観的な証拠と、関係者からの事情聴取結果をまとめた書面などが必要となります。

警察に相談する際のポイント

 被害届の提出時には、警察に相談することとなります。警察に相談する場合には、以下のように、いくつかのポイントがあるので、ご注意ください。

  • ① 証拠となる資料を持参して話す
  • ② 感情的にならずに客観的事実を話す
  • ③ 時系列に則って整理した上で事情を話す

 これらのポイントを押さえて相談をすることで、警察にも的確に事実を把握してもらうことができます。会社側の説明を警察が理解できない・理解しにくい場合には、警察も捜査を行ってくれない可能性が出てきますから、適切な説明にご不安がある経営者の方は、弁護士と一緒に被害届提出をなさることもご検討いただく必要があるでしょう。弁護士であれば、事実を的確に整理した上で、資料との関係性を示しながら最適な説明ができるはずです。

被害届を出した後の流れとは?

 それでは、被害届を提出した後の流れは、どのようになるのでしょう?この点もご説明いたします。

警察による捜査の流れ

 被害届が受理されると、捜査が始まるきっかけとなります。

 警察は、証拠隠滅の可能性や逃亡の可能性があると考えた場合には、犯人と疑われる者を逮捕した上で捜査・取調べを進めます。逮捕・勾留は、最長で23日間(逮捕72時間、勾留20日間)程度の身柄拘束を伴います。他方で、事件が重大でない場合や、証拠隠滅・逃亡の可能性が大きくない場合には、逮捕・勾留まではせず、「在宅事件」として身柄拘束を伴わない取調べ等をして捜査を進めることとなります。

 この捜査の結果、犯人と疑われる者が横領を行ったと考えられる場合、検察官が起訴・不起訴の決定を決めることとなります。起訴された場合には、有罪であれば懲役刑又は罰金刑が科されることとなり、不起訴となった場合には、刑事上はお咎めがなされないこととなります。

 なお、被害届が提出されたからといって、必ずしも捜査が開始されるとは限らない点については、注意が必要です。警察に必ず捜査をして欲しいということであれば、告訴をすることが適切です。告訴を受理してもらうためには、被害届よりもしっかりと証拠を集め準備をしなければなりません。

示談や民事訴訟の可能性

 このような捜査が進む中では、犯人と疑われる従業員は、自分に科される刑事罰をできるだけ軽く済ませようと考えることとなります。場合によっては多額の罰金を支払ったり、刑務所に収容されたりするわけですから、これを防いだり、前科が付かないようにしたりしたく考えるのです。

 横領などの経済犯においては、被害弁償・示談の有無が最終的な刑罰の重さを大きく左右しますから、当該従業員から被害弁償・示談の申入れがあるかもしれません。この際、会社としては、被害金・被害物の返還を重視すれば、被害弁償・示談に応じることとなるでしょうし、厳正な刑事処分を下してもらうことを重視すれば、被害弁償・示談を断ることとなるでしょう。経済的な合理性・会社の被害回復を重視するかどうか、経営上の判断となります。

 他方で、従業員からの被害弁償・示談の申入れがない場合もあります。この場合、会社としては、従業員に対して民事訴訟を提起して被害金・被害物の返還を求めることとなる可能性があります。この場合は、会社のみで対応をすることなく、法律専門家である弁護士の助力を得る必要があるでしょう。弁護士であれば、証拠の内容を踏まえ、民事訴訟においてどの程度の回収見込みがあるか見通しを立てることができますから、積極的にご相談ください。

横領被害を防ぐためにできること

 横領被害が発覚した場合の対応は以上のとおりとなります。とはいえ、会社としてみれば、そもそも横領被害に遭わないに越したことはありません。横領被害を防ぐためにできることを以下のとおり、ご提示いたします。

事前の予防策(契約書や管理体制の整備)

 まずは、事前の予防策を社内で徹底しておく必要があるでしょう。

 事前の予防策としては、例えば、契約書において横領行為があった場合の損害賠償請求額の予定をしておくこと、横領行為が遭った場合に懲戒解雇がなされることを明記すること(これは就業規則に明記することでも足ります。)や、入社時に横領行為等をしない旨の誓約書を取っておくことなどが考えられます。

 また、会社の管理体制の整備をすることも予防として適切です。例えば、現金のやり取りはできるだけ避け、現金をやり取りせざるを得ない場合は必ず伝票や領収書を速やかに確認する、会社の金庫は2人以上の社員がいなければ開かないようにしたり、会社の帳簿・在庫管理には2人以上の社員が関与するようにしたり、これらの重要な財産の管理は会社経営者(取締役等)に担わせることなどが考えられるでしょう。

 更に、顧問弁護士への依頼をすることも重要です。平時から弁護士への相談ができる体制を構築し、これを従業員に周知することでも、横領行為をする意欲を減退させる効果が期待できるでしょう。

専門家への相談の重要性

 上記の点と重なる部分もありますが、横領被害を防ぐためには、専門家へ相談することが重要です。企業法務に習熟した事務所であれば、横領被害を防ぐためのノウハウを蓄積していることが多く、かつ、実際に横領被害に遭った場合の早期対応も可能であることが多いです。このような企業法務の専門家に相談することも、非常に重要です。

 仮に顧問弁護士などがいない場合には、横領被害に実際に遭う前に(万が一横領被害に遭った場合には再発防止のために早急に)、顧問弁護士を付けることが有用でしょう。当事務所では、元検察官の弁護士も在籍しておりますから、捜査機関を経験した上でのアドバイスもすることができます。ぜひ、当事務所へのご相談・顧問弁護のご依頼をご検討ください。

弁護士に相談するメリット

 さて、以上のとおり、横領被害に遭ったときのポイントと、横領の事前防止策についてご説明しました。以下では、横領問題について弁護士にご相談されるメリットを再度整理した上で、ご紹介します。

被害届作成や法的アドバイス

 まずは、横領被害発覚後の助力を得られることが挙げられます。被害届作成時も弁護士に依頼すれば、多数の証拠の精査・整理から難解な事実経緯の整理を弁護士に任せることができます。被害届も、弁護士に任せてしまった方が、整理された論理的な文書となりますから、警察の受理可能性も格段に高まります。

 また、横領被害発覚後の対応について、早期に弁護士にご相談いただき、アドバイスを得られると、非常に心強いでしょう。弁護士であれば、上述したような刑事手続以外にも、民事上の被害金・被害品の返還請求の民事手続や、懲戒解雇処分などを下す懲戒手続など、法的な問題を俯瞰した上での助言をすることができます。事態を一面的にのみ捉えずに、会社としてどのような対応をとるのか、再発防止策も含めて共に検討できるのが弁護士なのです。

交渉や裁判でのサポート

 更に、交渉や裁判の場でのサポートを受けられることも挙げられます。

 弁護士は交渉・裁判の専門家です。弁護士は、相手方の立場・姿勢を見ながら適時に適切な交渉戦略を練ることに慣れていますし、裁判の場であれば適切な書面を証拠と共に整理して訴訟を進めていくことができます。特に企業法務・顧問弁護に慣れた弁護士であれば、横領被害に遭った場合の交渉・訴訟を優位に進めていけるでしょう。

 当事務所は、企業法務・顧問弁護に慣れた弁護士が複数在籍しており、かつ、検察官経験のある弁護士も在籍しておりますから、捜査機関からみた刑事手続の見通しを踏まえた上でのサポートができます。

 特に横領行為をした従業員からすれば、どの程度の刑罰を受ける可能性があるか・捜査機関による捜査がどの程度行われているか、によって被害弁償に応じるかが変わってきます。被害届を警察に受理させて捜査を適切に行わせること、これによって被害金・被害物の返還を受ける。このために、ぜひ、当事務所にご相談ください。

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【著者情報】


2001年 京都大学法学部 卒業

2014年 ボストン大学ロースクール修了(LL.M. in Banking & Financial Law)

北陸電力株式会社、検察官を経て、2007年に弁護士となる

以後約16年間シティユーワ法律事務所に所属し、2023年より弁護士法人グレイスにて勤務

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