2025年12月22日
取締役や役員による横領が発覚した場合、会社としてどのような対応をとるかは悩ましいところでしょう。このページでは、このような場合に会社・社長がどのような対応を取るべきかということについて、解説していきます。
目次
取締役や役員による横領の特徴
会社にとって、取締役や役員による横領は、一般の従業員による横領とは異なり、以下のような深刻な特徴を持ちます。
権限が大きく、チェックが働きにくい
まず、役員等が横領をした場合、権限が大きいことから、会社内のチェックが働きにくくなります。
役員等は、会社の重要な意思決定や業務執行に関する大きな権限を有しています。そのため、通常の従業員による横領よりも、巧妙に横領を行うことが可能となり、社内の監視体制(チェック機能)が十分に機能しにくい傾向にあります。
信頼されやすい
また、役員等の行為は他の従業員から信頼されやすい点も、横領の発覚が遅れる要因となる特徴です。
会社内部、特に他の役員や従業員から、その地位に基づいて高い信頼を寄せられているため、役員等はそもそも不正行為を疑われにくく、横領が長期にわたって見過ごされがちになります。
内部統制の対象外になりやすい
役員等の行為は、内部統制システムの対象外になることが多いです。
内部統制システムは、一般従業員の不正防止を主眼に設計されることが多く、役員等自身の不正行為を直接的に監視・防止する仕組みが不十分になりやすいです。また、役員等が内部統制の構築や運用に深く関与している場合、自らの不正が発覚しにくいように仕組みを操作することも容易です。
被害金額が大きくなりやすい
被害金額が大きくなりやすいのも、役員等による横領の特徴です。
上記のような、役員等の大きな権限と会社内部のチェックの働きの鈍さから、横領行為が大胆になりやすく、多額の会社資金や財産を対象とするケースが多くなり、被害金額が極めて大きくなる傾向があります。
発覚が遅れやすい
このような理由から、役員等による横領は発覚が遅れやすいです。役員等による横領の場合、上記特徴が複合的に作用し、不正が隠蔽されやすいため、発覚が遅延し、その間に被害が拡大してしまうという悪循環に陥りやすいです。
取締役や役員による横領が発覚したときの社内での初動対応
役員等による横領が疑われる場合、証拠隠滅のリスクが高いため、迅速かつ慎重な初動対応が不可欠です。
顧問弁護士に相談
横領の疑念が生じた段階で、できるだけ早く、顧問弁護士または企業不祥事に強い外部の弁護士に秘密裏に相談することが極めて重要です。弁護士は、会社に代わって公正な調査(第三者調査)を行うことや、法的な観点から適切な対応(証拠保全、本人への聴取方法、刑事告訴の可否など)を助言することができます。
特に横領事件では、犯人が証拠隠滅をする前に確たる証拠を確保することが最重要となります。どのような証拠であれば強い証拠といえるのか、弁護士の助言は必須といえます。
証拠を押さえる
顧問弁護士に相談することと併行して、横領の事実を立証して損害賠償請求や刑事告訴を行うために、証拠を押さえることが重要となります。例えば、以下のような証拠を確保できると良いでしょう。
- 銀行口座の取引履歴、会計帳簿、契約書、領収証、電子データ(メール、PCのログ、データ)など
証拠を押さえる際には、役員等に気付かれないように、証拠を収集する必要があります。役員等に気付かれてしまうと、証拠隠滅行為や、他の従業員等との間での口裏合わせを可能としてしまいます。また、必要に応じてデジタル・フォレンジック調査の専門家や公認会計士などと連携することも有効です。
その後、客観的な証拠をもとに、本人や関係者への事情聴取を行い、事実を認めさせることを狙うこととなります。この際には、強要があったと言われないように、録音をしておくことも重要です。
取締役会・株主総会での解任手続の流れ
横領を行った役員等については、再発防止と会社の信用維持のため、その地位から速やかに排除する必要があります。
取締役等の役員を解任するには、原則として、株主総会の普通決議(議決権の過半数を有する株主が出席し、出席株主の議決権の過半数の賛成を得る決議)が必要です。この前提として、取締役会で株主総会の招集を決定して株式総会を開催することとなります。
取締役の解任に正当な理由がない場合、会社は当該取締役に対し、不当な解任による損害賠償責任を負う可能性があります。横領は通常、正当な理由に該当しますから、株主総会・取締役会にて他の取締役や株主を納得させるための証拠を収集して準備しましょう。
社内処理と公表対応の検討
また、上記手続と平行して、社内処理と公表対応をどのようにするのか、検討することが重要となります。
まず、社内で役員の解任手続等をするとともに、従業員に共犯者・関係者がいる場合には、懲戒処分(諭旨解雇または懲戒解雇)を検討し、就業規則に基づき正確な手続を踏んで実施することを検討しましょう。また、被害額について損害賠償請求をするか否かも、会社として決定を要する事項です。
次に、経営層による横領が発生した場合、上場企業などの社会的な影響が大きい企業であれば、適時開示義務や説明責任が生じる可能性があります。公表の必要性、タイミング、内容について、弁護士と連携し、事実に基づき、かつ再発防止策を明確に示す形で対応を検討することとなるでしょう。公表の遅れや不適切な情報開示は、さらなる信用失墜を招きかねません。このため、レピュテーション・リスクを検討しながら、公表の有無・方法等を決めていかなければなりません。
取締役や役員による横領の経営リスクと影響
ここで、取締役や役員による横領の経営リスクと影響について解説します。
信用失墜と取引先・金融機関への影響
第一に、役員等による横領は、会社のガバナンス(企業統治)の欠如を露呈させますから、企業の信用を著しく失墜させます。
取引先からは、契約の解除や取引停止、新規取引の拒否などがなされる可能性がありますから、事業継続に影響が出るでしょう。また、金融機関からは、融資の打切りや新規融資の停止、金利引上げなどの対応を受ける可能性があり、資金調達に深刻な影響を及ぼします。
こういった外部者への影響は、企業にとって重大です。
株主対応・従業員対応で注意すべき点
また、株主や従業員が会社への諦念を抱いたとしても不思議ではありません。ですから、以下のように、株主対応・従業員対応が必要となります。
- 株主対応:株主代表訴訟のリスク(他の役員等への責任追及)増加や、株価の下落や配当への影響などから、株主の信頼回復に向けた丁寧な説明と、再発防止策の実行が必要となるでしょう。横領発覚前以上に、株主への透明性を確保しなければなりません。
- 従業員対応:また、従業員の士気が低下し、会社への不信感が増大することも想定されます。会社としては、事実を適切に共有し、「不正は許さない。」という毅然とした姿勢を示すことが、組織の規律維持のために重要です。
取締役や役員が横領した場合の法的責任
横領を行った役員等は、会社や社会に対して様々な法的責任を負います。
業務上横領罪
まず、横領を行った役員等は、「業務上自己の占有する他人の物を横領した者」に当たるため、業務上横領罪が成立する可能性が高いです。法定刑は10年以下の拘禁刑です。
特別背任罪
また、これだけでなく、特別背任罪(会社法960条)が成立する可能性もあります。法定刑は10年以下の拘禁刑もしくは1000万円以下の罰金、またはこれらの併科と、刑罰が非常に重い罪です。
刑事告訴
会社は、役員等による横領が発覚した場合、警察などの捜査機関に告訴状を提出し、加害者の刑事責任を追及することができます。刑事告訴は、加害者に対する強いプレッシャーとなり、示談による被害回復を促す効果も期待できます。ただし、告訴には、捜査機関が動く程度に確実な証拠が必要です。告訴の受理や捜査の開始は警察の判断に委ねられますから、的確な証拠を用意しましょう。この点についは、弁護士と相談の上、慎重に進める必要があります。
顧問弁護士に相談するメリット
役員等による横領事案は、その特異性から、初動対応でミスを犯すと、被害回復や責任追及が困難になるだけでなく、会社の存続自体を危うくする可能性があります。ぜひ、顧問弁護士にご相談ください。
秘密裏に相談できる安心感
顧問弁護士に相談する際には、守秘義務がありますから、秘密裏に相談できる安心感を得ることができます。
役員等への疑義は、社内の他の役員や従業員に知られると、証拠隠滅や混乱を招くリスクがあります。社外の弁護士であれば、守秘義務に基づき、事実関係の調査や対応策の検討を極秘に進めることが可能です。
法的対応・解任手続のスムーズな実行
また、顧問弁護士であれば、証拠収集、本人聴取、懲戒処分、損害賠償請求(民事訴訟)、刑事告訴、および株主総会での解任手続といった一連の法的対応を、法律に基づき適切かつ迅速に実行できます。不適切な手続は、後になって訴訟リスクを生じさせる可能性があるため、専門家によるサポートが不可欠です。特に顧問弁護士であれば、あなたの会社の実情に応じた対応を取ってくれるでしょう。
再発防止の仕組みづくりまでサポート
弁護士は、再発防止の仕組みづくりまでサポートできます。横領事件の対応後、弁護士と共に、事件の原因を究明し、内部統制システムの強化、監査役機能の強化、コンプライアンス体制の再構築など、二度と不正を起こさないための再発防止策を策定していきましょう。
まとめ
以上のとおり、取締役や役員による横領が発覚した場合の対応について解説しました。
取締役や役員による横領は、会社の存続に関わる重大な危機です。発覚した場合、まずは弁護士に相談し、証拠の確保と迅速な事実調査を行うことが最重要となります。その後、解任手続、損害賠償請求、必要に応じた刑事告訴、そして社内外への適切な説明と再発防止策の実行へと繋げ、危機からの脱却を図る必要があります。
当事務所では、横領被害に遭われた会社の支援に注力しています。お困りの際には、相談ベースで問題ございませんので、ぜひ、当事務所までご連絡ください。