2025年10月28日                            
                        
横領・業務上横領の疑いが強いのに、従業員が横領の事実を否認したり、事実を問い質しても黙秘したまま何も語らない。こんな自体にお悩みになる経営者は意外に多いものです。このような場合に、企業としてどのような対応を取るべきか、何か行動の指標があれば方針を立てられるでしょう。
そこで、この記事では、横領の疑いがある従業員が横領を認めない場合に企業がすべき対応についてご説明します。
1.従業員が横領を認めない場合の対応
従業員が横領を認めない場合には、まずは以下のような対応を取るべきです。
1-1.横領の証拠が十分にある場合
まず、横領の証拠が十分にある場合です。このようなケースでは、従業員が否認しようと黙秘しようと、客観的な証拠を用いて淡々と法的措置を進めていくこととなります。
1-1-1.被害届・告訴の提出
まず、手元にある証拠を集めた上で、それを法的に整理して告訴状を作成し、これを提出することが考えられます。こうすることで、警察に捜査を行ってもらい、従業員にプレッシャーを掛けることができます。
証拠が十分に揃っているのであれば、刑事手続を進め、その中で取調べのプロである捜査機関に従業員から事情を聴取してもらいましょう。取調べには同席することはできませんが、従業員が会社に対して自白するきっかけになる可能性があります。
1-1-2.損害賠償請求・返還請求
次に、損害賠償請求や、不当利得返還請求権に基づく金銭請求をすることが考えられます。証拠が十分にあるのであれば、当該従業員や裁判所に対して証拠を示し、横領行為があったことと、具体的な被害額を提示するべきです。交渉や訴訟において被害金額の支払ないし返還を受けることで、会社が横領によって負ったダメージをできる限り軽減しましょう。
1-1-3.社内処分
最後に、社内処分を下すこともできます。具体的には、故意の犯罪行為によって会社に損害を与えていることを理由に、懲戒解雇処分に代表される懲戒処分を下すことが考えられます。
証拠が十分にあるのであれば、懲戒処分を下すことによって当該従業員を社内から排除するとともに、対外的・対内的に、あなたの会社が不正に厳正に対応する会社であるということを示すことができます。この場合には、当該従業員に弁明の機会を付与することを忘れないようにしましょう。
ただし、仮に証拠が不十分な場合には、従業員から懲戒処分が無効であると主張されかねませんので、必ず弁護士にご相談をいただいてから対応されるべきです。
1-2.横領の証拠が不十分で、従業員が認めない場合
次に、横領の証拠が不充分で、かつ、従業員が事実を認めない場合です。このようなケースでは、当該従業員が証拠隠滅・口裏合わせをする前に、必要な証拠を収集していくこととなります。
1-2-1.無理に問い詰めない
このため、従業員に横領の疑いがかかった場合であっても、無理に当該従業員を問い詰めないようにしましょう。
むしろ、証拠が集まるまでは、横領の疑いが掛かっていることさえ伝えるべきではありません。当該従業員が、自分が疑われていると考えた場合には、証拠隠滅等、自分に有利になるように不当な対応を取ってしまうおそれが高いです。
まずは従業員を泳がせつつ、証拠収集に集中しましょう。
1-2-2.社内調査を開始する
証拠を収集する上では、客観的な証拠から優先して収集するようにしましょう。客観的な証拠があれば、仮に従業員に口裏合わせをされたり、嘘をつかれたりしても、これよりも強い証拠を確保できたといえます。
このためには、信頼できる従業員のみで社内調査を開始することが必要となります。社内調査をする場合には、防犯カメラ映像等の比較的早く消えてしまう証拠を確保することや、帳簿データ・在庫品の管理システム等の改ざんがしやすい証拠を守ることなど、優先順位を整理した上での調査が必須です。
1-2-3.ヒアリング(事情聴取)は慎重に
それらの客観的証拠を収集した上で、当該従業員や関係する従業員からのヒアリング(事情聴取)を行うこととなります。事情聴取は、録音して記録化しながら行うべきでしょう。
事情聴取をする際には、従業員同士で口裏合わせをされないように、事情聴取する順番や日程など、多くのことに気を配る必要があります。また、事情を聞く際には、誘導をしてしまったり、威圧的な言葉を出したりしてしまうと、聴取した結果自体の信用性に悪影響を及ぼしかねませんから、ここにも注意が必要です。
1-2-4.弁護士に相談する
いずれの対応をとるにしても、どこまで調査したら証拠が十分といえるかという判断や、社内調査の優先度・ヒアリングの仕方など、専門的な観点からの助言が必要な対応が要求されます。このため、横領被害に気付いた初期の段階で、できるだけ早期に弁護士に相談することをお勧めします。
普段から顧問弁護士との連携が取れている場合には、顧問弁護士があなたの会社の業態・実情を理解しているでしょうから、スムーズに相談・対応検討が進むはずです。顧問弁護士に遠慮せず、早め早めに相談をするようにしましょう。
2.横領の立証に十分な証拠とは?
横領を立証するためには、横領の事実と、それが特定の従業員によって行われたことを客観的に示す証拠が必要です。単独の証拠だけでなく、複数の証拠を組み合わせて「不正行為の全体像」を構築することが重要です。
2-1.帳簿や振込記録のコピー
企業が管理する帳簿の改ざん、銀行口座の入出金記録、振込記録などは、金銭の流れを追跡するための最も有力な証拠です。特に、不審な出金や個人口座への送金記録は決定的な証拠となり得ます。
経理担当者の横領が疑われる場合には、経理担当者に頼らずにこれらの記録を収集する必要がありますから、注意が必要となります。
2-2.メール・LINEなどのやりとり
従業員間の不正な取引に関する相談や、横領の事実を示唆するようなやりとりは、当事者の「意図」を証明する上で重要な証拠となります。
しかし、プライバシーの問題があるため、取得方法には注意が必要です。例えば会社のパソコンから当該従業員のLINEにアクセスすると、不正アクセス禁止法に違反する可能性があります。必ず弁護士に事前に相談するようにしましょう。
2-3.監視カメラの映像
金銭の受け渡しや書類の持ち出し、金庫の開閉など、不正行為が行われたと推測される場面の映像があれば、証拠として非常に有効です。防犯カメラにせよ、監視カメラにせよ、一定期間が経過すると古い映像は削除されてしまいますから、早めの確認・証拠保全をするようにしましょう。
2-4.領収書の改ざんや私的流用の痕跡
経費精算における領収書の金額改ざん、架空の領収書、業務に関係のない私的な支出に対する領収書などは、不正な金銭の流れを示す具体的な証拠となります。これらの領収書は、私的な支出・流用の痕跡として残されていることが多いですが、内容の精査・分析に時間を要するので、早めに回収しておくべき証拠といえます。
これらの証拠は決算等に必要なため税理士の手元にある場合もありますから、必要に応じて、顧問税理士の協力も仰ぎましょう。
3.従業員が横領を認めない場合に弁護士に相談するメリット
上記のとおり、従業員が横領を認めない場合、特に証拠が不十分なときには、企業が独力で対応することは非常に困難です。弁護士に相談することで、以下のような大きなメリットが得られます。
3-1.不十分な証拠でも“合法的にできる対応”を教えてくれる
証拠が不十分な場合でも、弁護士は法的リスクを最小限に抑えつつ、従業員への事情聴取や社内調査を進めるための適切な助言を提供します。もちろん、合法的に可能な範囲で、有効な証拠収集の手段も助言することができます。
3-2.適切な証拠の集め方・調査手順のアドバイス
弁護士は、裁判で有効となる証拠の種類や、それを法的に問題なく収集する方法について具体的なアドバイスをしてくれます。これにより、証拠が不当な方法で集められたなどと主張されて証拠が無効になるリスクを回避できます。
3-3.社員への事情聴取の進め方のアドバイス
また、事情聴取の際の質問内容や、どのような点どのように記録すべきかなど、具体的な事情聴取手続の進行方法についてのアドバイスを受けることもできます。これにより、従業員(聴取対象者に対する)不適切な聴取によるパワハラ等の他のリスクを回避し、従業員から適切な情報を引き出すことが期待できます。
3-4.適切な処分のサポート
従業員に対する懲戒解雇などの社内処分は、法律上の要件を満たしていないと不当懲戒と判断されるリスクがあります。弁護士は、証拠に基づき、就業規則などの社内規定を見ながら、これらに則った適切な処分を決定するサポートをすることができます。懲戒処分時には、必ず弁護士の助言を受けるべきです。
3-5.横領した従業員への心理的圧力
もちろん、企業が弁護士を代理人に立てて交渉や調査を進めること自体、当該従業員に対し、「企業が本気で法的措置を検討している。」という強いプレッシャーを与える行為といえます。これにより、従業員が横領を認めたり、被害額の返済に応じたりする可能性が高まります。
もちろん、実際に弁護士に依頼をして民事訴訟を提起する・被害届を提出するなどといった手続を進めていく中でも、更に心理的圧力を高めていくことができます。
4.まとめ
以上のとおり、横領の疑いのある従業員が横領を認めない場合に企業がすべき対応について解説しました。当事務所では、元検察官の弁護士も在籍しておりますから、横領被害に遭われた会社のフォローに対して注力することができています。企業経営者の頭を悩ませる横領問題には、厳然たる対応を取りましょう。
ぜひ、横領被害に遭われたことに気付かれましたら、早急に当事務所までご相談ください。あなたからのご相談をお待ちしております。
