2025年6月12日
2025年6月12日
背任行為をわかりやすく解説
従業員や役員の不正行為にお悩みになる経営者は多いです。この記事では、従業員や役員の不正行為のうち、「背任罪」、「背任行為」に注目して分かりやすく解説いたします。
そもそも背任罪とは、以下のような規定で処罰がなされるものとなります。
刑法247条 他人のためにその事務を処理する者が、自己若しくは第三者の利益を図り又は本人に損害を加える目的で、その任務に背く行為をし、本人に財産上の損害を加えたときは、5年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。
なお、取締役等が同様の行為をした場合には、会社法960条所定の特別背任罪に該当し、「10年以下の懲役若しくは1000万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。」こととされます。
ここでは、①他人のためにその事務を処理する者が、②自己若しくは第三者の利益を図り、②’又は本人に損害を加える目的で、③その任務に背く行為をし、④本人に財産上の損害を加えたときに、背任罪が成立すると規定されています。以下、個別の要件について簡単に解説します。
①他人のためにその事務を処理する者
まず背任罪の主体としては、他人のために事務処理をしている者であることが要求されます。ここには、例えば会社の経理担当者や、レジ処理担当者など、金銭的(又は財産的な利益にかかわる)事務を取り扱う者が含まれます。
背任罪は、このように会社や個人事業主から任せられた事務権限に反して行う行為に対する犯罪となります。
②自己若しくは第三者の利益を図る目的(自己図利目的・第三者図利目的)
また、背任罪には行為に関する目的が要求されます。
背任罪が成立するためには、自己や第三者の利益を図る目的が要求されるのです。ここでいう「利益」には、単純な経済的利益のみならず、信用、社会的地位、名誉なども含まれます。このため、例えば会社から課されたノルマをクリアしたかのように見せることで自身の信用を得るために背任行為をした場合も、ここでいう利益を図る目的があったと認められます。
②’本人に財産上の損害を加える目的(本人加害目的)
背任行為をした者に、自己図利目的・第三者図利目的がなかったとしても、本人に財産上の損害を加える目的(本人加害目的)があれば、背任罪が成立します。本人に損害を与える目的のみで行為が行われ、背任行為をした者に何らの利益がないとしても、背任罪は成立します。
会社に損害を与える目的で会社から任せられた事務権限に反する行為を行うこと自体が許容されていないのです。
③その任務に背く行為(任務違背行為)
背任罪において処罰されるのは、会社から依頼された任務に背く行為です。ここでいう「任務違背行為」とは、各種法令、契約、信義誠実の原則などの法規範から、法的に期待される行為に違反することを指します。
例えば会社の経理担当者であれば、雇用契約上当然に、会社の財産を自己の個人的理由に用いないことが期待されていますので、会社の預貯金を自己名義の口座に送金処理した場合には、任務違背行為が認められます。
また、同様に会社役員であれば、法律上会社に対して忠実に尽くす義務を負いますから、これに反して会社財産を私的に流用したり第三者に理由無く流出させたりする行為は任務違背行為に該当します。
④本人に財産上の損害を加えたとき
上記任務違背行為によって会社や個人事業主本人に、財産上の損害を与えた場合に、初めて背任罪が成立します。
但し、不正融資や無信用貸付など、回収可能性が低い貸付をした場合にも、会社に損害が生じたとみなされます。
背任行為の問題点
背任行為の問題点は、その発覚が遅れがちになる点にあります。
背任行為は会社に損害を与える行為ですので、会社として不利益を被っていることは間違いがありません。しかしながら、会社内部の人間による行為であるため、横領同様に、会社がその非違行為に気付かないように、背任の事実が巧妙に隠されていることが一般的です。このため、会社が気付いたときには、既に多くの損害を被っている場合が多くなります。
このため、背任行為に早期に気付くこと・気付いた際に背任行為を止めるための行動を早急にとることが重要となります。背任行為に気付いた際には、できるだけ早く弁護士に相談するべきと言えるでしょう。
背任行為の具体例
ここで、背任行為の具体例にも触れておきましょう。
従業員が、会社の取引先と架空取引を結び、リベートを受領する
この例では、従業員が会社の取引先と、実際には存在しない取引についての契約を結ぶことによって、架空の取引情報を作出します。これにより、会社資産を取引先に流出させ、取引先に得をさせます。
従業員は、相手方の会社からリベートを受領することによって利益を得ます。ここでいうリベートには、実際の現金や商品のほか、接待を受けるなどの間接的な利益を得る場合も含みます。
この場合には、従業員が自分(そして取引先)の利益のために会社から委託された任務に反して会社に損害を与えていますので、背任罪が成立することとなります。
銀行の融資担当者が、相手方の利を図るために、信用判断について虚偽の報告をして融資決裁を得て融資する
この例では、銀行の融資担当者が、(多くはリベートを得るなど自分で利益を得る目的も含みますが)融資先の利益を自社利益よりも優先して融資を実行しています。
この場合、銀行は、相手方の信用判断について誤解をした状態で自社に不利な融資をさせられています。ここでは、実際に融資の返済を得られれば会社に損害が生じていないようにも見えますが、上記のとおり、回収可能性が低い債権になってしまったこと自体を損害とみなすこととなります。
このため、この場合にも、背任罪が成立します。
従業員が会社の営業機密(顧客情報等)を他社に提供する
この例では、従業員が会社の営業機密を他社に開示し、これによって会社に損害を与えています。
この場合には、会社の情報を正当な理由無く他社に提供しているので、背任罪に加え、別途不正アクセス禁止法違反・不正競争防止法違反の犯罪が成立する可能性もあります。捜査機関にこれらの犯罪があったと認めてもらって、刑事手続を進めるためには、社内で充分な証拠を集めておく必要がありますので、注意しましょう。
横領と背任の違い
ちなみに、背任罪と似た犯罪として、横領罪(業務上横領罪)があります。
横領と背任は重なる部分が多く、横領罪でカバーできない部分を背任罪でカバーして処罰することが多いです。実務的には、横領罪等での立件が可能であるかを検討し、カバーできない場合に背任罪での立件が検討されることが多いといえます。
このような横領・背任の違いや背任罪での検討を進めるべきか否かについては、ぜひ弁護士にご確認ください。
背任罪の刑事罰
背任罪の法定刑は、「5年以下の懲役又は50万円以下の罰金」とされています。
このため、背任によって会社にもたらされた損害の大きさや、背任行為の継続期間などの事情を踏まえ、この法定刑の範囲で刑罰が科されることとなります。背任罪によっていきなり実刑判決を受けて刑務所に服役するケースはあまり多くありませんが、当然、被害額の大きさ次第では実刑判決もあり得ます。
背任行為を受けたときの対応
背任行為の被害を受けたときには、会社としては、まずは証拠を集めることが重要です。特に、客観的な証拠を集めることから始めることが肝要です。
客観的な証拠がどれだけ集まったか、そしてどのような証拠が集まったかを踏まえて、その後の法的対応をどの程度取るべきか検討していきます。
この際には、ぜひ弁護士ご相談ください。弁護士であれば、証拠からどのような手続が可能か的確に助言してくれます。特に背任行為を受けた場合には、①損害賠償請求をして金銭的被害の回復を狙う、②刑事告訴等を行って刑罰を科してもらう・捜査をしてもらうことを進める、③社内での懲戒処分等による解雇をする、と様々な法的手続があり得ますから、法律の専門家による助言が必要不可欠といえるでしょう。
特に顧問弁護士を依頼していない会社においては、普段から相談を受けてくれてあなたの会社・業界の情報に強い弁護士を付けておくことを強くお勧めします。
まとめ
さて、以上のとおり、背任行為について解説いたしました。ご参考になりましたでしょうか。
実際に社員・従業員・他の役員による背任行為に悩まれる方は多くいらっしゃいます。被害にお悩み方や、対策を検討している方は、ぜひ当事務所にご相談ください。当事務所には、企業法務から横領摘発まで会社に関する多数の案件を経験した弁護士が在籍しております。あなたからのご相談を心待ちにしております。