2025年6月12日
競業避止義務に違反するとどうなる?
従業員が競業避止義務に違反したらどうなるのでしょうか?
従業員や業務委託先との間で、契約書・就業規則上に「競業避止義務」を記載している企業はいらっしゃるでしょうが、この点について細かくお考えになった方は多くはないかもしれません。以下では、競業避止義務に違反するケースと、被害を受けた企業が対応すべきことについて解説します。
結論
さて、まず結論を述べますと、競業避止義務に違反して転職したり起業したりした従業員には、労働契約違反が認められる可能性がありますから、会社に生じた損害を賠償する責任を負う場合があります。
また、競業を行った際の競業の方法・競業準備の手段などによっては、不正競争防止法違反行為など、刑罰が存在する違法行為が成立する場合もあります。
競業避止義務とは
それでは、そもそも競業避止義務とは何を指すのでしょうか?
競業避止義務とは、会社が従業員などに対して課す義務であり、会社の事業と重なる事業を行うこと(競業すること)を禁止するものとなります。主に、在職中は無制限に、退職後も範囲と時期を絞って一定の制限のもとに、競業を禁止する形式の契約条項が用いられることが多いです。
また、競業を禁止する代替措置として、退職時に一定の金銭を交付する規定を置いている企業もあります。
競業避止義務違反で企業が受ける損害の具体例
競業避止義務違反行為を受けた場合に、企業には、以下のような具体的な損害が発生することとなります。
顧客の流出
まず、顧客の流出が想定されます。
従業員による競業行為によって、単純に同一商圏において同一事業に携わる相手が増えるわけですから、顧客が減ることとなります。
それだけならまだしも、従業員による競業行為は、企業が取り組んでいる事業同様の事業を展開する行為であることが大半です。それゆえに、真正面から企業と従業員とのそれぞれの事業が顧客を奪い合う形になります。こういった形で顧客が流出するという損害が発生しやすいのです。
特に、例えば従業員であった美容師による競業など、個人の腕に顧客がついていくような業態ですと、同一商圏での競業による顧客流出の打撃は非常に大きなものとなります。
秘密情報の漏洩
次に、秘密情報の漏洩の問題が想定されます。
従業員が競業を行うためには、企業に勤めていた時のノウハウだけではなく、色々な企業機密・秘密情報の利用が必要となります。これらの企業が抱える秘密情報が漏洩することも大きな損害といえるでしょう。
例えば、システムエンジニアが競業を考えた場合、自社で利用していたシステム等の内部情報・機密情報をそのまま利用することが考えられるでしょう。このような競業が行われてしまうと、自社の独自性・特異性が失われてしまいます。
利益の損失
競業行為によって、売上げが減少し、利益の損失がもたらされます。これが数字の面で現れる損害といえます。
従業員の競業がどの程度同一商圏で、どの程度近似した事業内容で行われるか次第ですが、目に見えて利益が損なわれることが一般的です。この損害を競業相手に請求することができるかどうかが、従業員の競業に直面した企業経営者としての悩みどころになるでしょう。
競業避止義務違反で被害を受けた企業が対応すべきこと
それでは、競業避止義務違反で被害を受けた企業が対応すべきことをご紹介します。
証拠の収集
まず最初に、証拠の収集をしなければなりません。特に、客観的な事情・事実を示す証拠を収集するべきでしょう。
例えば、競業行為について広告媒体があるのであれば、広告媒体を記録に残すことが考えられます。また、競業している地域・期間についての証拠も押させられれば武器になります。もちろん、誰が競業しているかも証拠で確定しておきましょう。
このような証拠がないままに競業避止義務違反行為をする元従業員等に文句を言ってしまっては、逆に証拠を隠されたり口裏合わせされたりする時間を与えるだけですから、証拠収集前に相手方と接触することのないようには注意が必要です。
弁護士への相談
その後、弁護士にご相談をなさるべきです。
弁護士であれば、民事上の交渉・裁判から、刑事上の刑事告訴・刑事手続まで、幅広く見据えた上で各手続の選択をすることができます。特に競業の場合には、相手方が不正競争防止法違反行為・不正アクセス禁止法違反行為に及んでいる可能性もありますから、刑事手続を視野にいれる必要もあります。
また、各手続を行うためにどの程度の証拠があれば良いかも、弁護士の助言を得ながら検討するべき事項です。場合によっては、証拠収集をし直すべき場面もあります。
損害賠償請求
弁護士の協力を得ながら、競業避止義務違反行為をした相手方に対し、損害賠償請求をすることも検討されるべき事項です。
上記のとおり、元従業員の競業避止義務違反行為があった場合には、各種の損害を受けることとなります。これらの損害を金銭評価・算定した上で、競業をはたらく元従業員に請求するべきです。そうでなければ、あなたの会社が損を重ね続けることになってしまいます。
差止め請求
更に、業種・業態によっては、競業避止義務違反行為の差止め請求も必要となるかもしれません。
差止め請求とは、文字どおり、競業避止義務に違反する競業行為の差止めを裁判所に求める請求を意味します。競業による損害があまりにも大きい場合などには、損害賠償請求で争っている間に競業行為を繰り返され、会社の体力が奪われていってしまうこともあります。このようなことのないよう、競業行為そのものを根本から止めてしまう請求といえるでしょう。
差止め請求の方が損害賠償請求よりも認められにくい傾向にありますから、この手続を選択する場合には、弁護士にご依頼いただく必要があります。
競業避止義務違反を事前に防止するには
また、そもそも競業避止義務違反を事前に防止するためには、弁護士と協力しながら以下のような対策を取る必要があります。
従業員との契約内容を明確にする
まず、従業員との契約内容を明確にする必要があります。従業員との雇用契約書に「競業避止義務」を定める条項を置いたり、従業員との間で競業避止義務についての覚書を締結したり、契約内容に競業避止義務が含まれることを明記しましょう。
この場合には、競業避止義務が無効とならないように注意が必要です。実は、単純に従業員の退職後の競業避止義務を定めるだけだと、これが無効と扱われる可能性が高いのです。競業避止義務が有効となるかどうかは以下の判断基準(特に②)に則って決定されます。
①競業避止義務の必要性を基礎付ける事情
- 競業避止義務を課して守るべき会社の利益の有無
②競業避止義務の許容性・相当性を基礎付ける事情
- 従業員の在職中の地位
- 競業避止義務が課される地域的範囲
- 競業避止義務が課される期間
- 競業避止義務において禁止される競業行為の範囲
- 競業避止義務の代償措置の有無・内容
但し、これらの基準を満たした契約書となっているかどうか、ご自身で判断することなく、弁護士のアドバイスを得ながら競業避止義務に関する条項を作成することを強くお勧めいたします。
情報管理
次に、会社内の情報を適切に管理することが必要です。
顧客情報や企業機密に該当する情報については、アクセス権限を与える人物を限定するようにしましょう。無制限に従業員がアクセスできてしまう状態を維持することは不適切となります。このような体制では、従業員が容易に競業することを可能としてしまいます。
ちなみに、顧客情報等の営業秘密を不正に取得したり、第三者に開示したりする行為は、不正競争防止法違反行為に該当し、刑事罰が科される可能性があります。この刑事罰を科してもらうためには、営業秘密が「秘密として管理されている」ことが要件となります。このため、情報管理が甘い場合には、企業機密・営業秘密を持ち出したり不当に利用したりした従業員について刑事手続を求めることができなくなってしまう可能性すらあります。
情報管理については、適切な体制を構築し、徹底した統制を図るようにしましょう。
退職者の動向をチェック
また、退職者の動向のチェックも欠かせません。
従業員は、退職後に競業を行います。この際、当然ながら元々勤務していた会社に一言断ってから競業を行うような者はいません。ですから、退職者が競業避止義務を負う期間にこの義務に違反するような競業を行わないように(又は行った際にすぐに対応を取れるように)、その動向をチェックしておく必要があります。
法的対応の準備
このような競業避止義務違反行為があった場合の法的対応の準備を事前に進めておくことも、予防策として機能します。従業員に対して競業避止義務違反行為に対して厳正な対応を取る姿勢を示しておくことで、退職後の競業避止義務違反行為を抑制することが期待できるのです。
このためには、トラブルの起きる前・平時から密に連携を取れる顧問弁護士と契約しておくことが有用でしょう。顧問弁護士はあなたの会社・業態について細かなヒアリングをした上で、あなたの業態に即した対応準備を勧めてくれるでしょう。これによって、実際に悪い事態が起きた際にも、早急に適切な措置を講じることができ、被害を最小限に抑えることも期待できます。
まとめ
以上のとおり、競業避止義務とその違反への対応についてご説明しました。競業避止義務違反行為に悩む方は多くいらっしゃいます。当事務所では、このようなご相談を多く伺うため、確かな経験と実績があります。
従業員の競業避止義務についてお考え・お悩みの方は、当事務所に一度ご相談ください。選りすぐりの弁護士達が、あなたからのご相談をお待ちしております。